樽口峠

飯豊連峰の懐中のローカル峠

読み方たるぐちとうげ
標高490m
位置山形県西置賜郡小国町
道路林道樽口峠線
水系荒川

実走日2014年5月31日(土)
地図などGoogle Maps地図院地図

全国的に飯豊連峰というものがどのように知られているのかはわからないけれども(そもそも飯豊連峰という呼び方がどの程度一般的なのかも知らないけれども)、新潟平野の北の方で生まれ育ったおれにとって、それははるか遠くにある白い山々という、少し神秘的な印象があった。その後移り住んだ松本で見る北アルプス(親しげな山々)とはそれは対照的なものだった。

この樽口峠はその飯豊連峰に最も肉薄する車道の峠である。荒川沿い・米坂線沿線の小国の町からずっと南に入ったところにあり、わざわざ目指して行くのでなければ絶対に通過しない位置にあり、けっこう不便ではあるが、やる気になれば東京からの日帰りもできる。朝日連峰の愛染峠よりは行きやすい。

ニセアカシアの咲く国道113号線

この日は小国駅(標高139.2m)を出発して時計回りに走ることにした。その途中に樽口峠があるわけだ。

小国の市街地から国道113号線で西に進む。フジやヤブデマリの花を見かける。道の駅を過ぎ、赤芝橋を渡りシェルターに入る。強い光の下の赤芝峡を左下に眺めつつ行く。光と影のしましまのシェルターの道はなかなかの風情がある。

玉川口で左折して峠を目指すわけだが、立体交差になっているので実際には右折しなければならない。ニセアカシアが川端にたくさん咲き、甘い香りがしている。

この分岐は、新潟側から来るとシェルターを抜けた直後であり、さらには発電所に入る道と間違えやすいこともあるので、その場合は注意したほうがいい。


玉川に架かる橋からの眺め

ここからは県道15号線だ。交通量は多くない。じりじりと川沿いの林の中を上っていく。このへんにはハクウンボクが多く、白い花がまだまだ咲いている。

少し行って下新田で左折する。この交差点にはわらび園の看板がたくさんあり、風布のみかん園(例えば葉原峠を参照)を思い出す。

わらび園というのは、このへんの春の名物で、お金を払って山に入れさせてもらい、わらびを収穫できるという山のことである。遠目には木がないので目立つ。

左折するとすぐ玉川にかかった橋を渡る。右手には赤い上路トラスの旧道の橋が架かり、その向こうには残雪の山が見えるが、飯豊連峰の本体ではないようだ。白っぽくもやって見える。

あとで調べると、後述の朳差岳の前衛に位置する大境山という山のようだ。


県道15号線とタニウツギ

人通りのほとんどない静かな道を行く。道はよく整備されていて両側は明るい林であり、北海道を思い出す。路肩にはとにかくタニウツギのピンクの花が多い。

途中、右側に清水がある。地元らしいおじさんがふたり車で来ていて、話しかけられる。どこから来てどこへ行くのかなどを話す。樽口峠については、ロープ張ってあるかも、でもまあ自転車は通れるだろとのこと。このときは雪の話かと思ったのだが、あとで考えるとわらび園による通行規制の話なのだろう。

おじさんの一方は、おれの自転車を見て、30万くらいする自転車かというようなことを言っていたが、2007年にこの峠に来たときにも、そういうことを言うおじさんに会ったような気がする。もしかして本人? まあ、わかるわけはないが。

ぽつぽつと人家のある田舎道を行く。道はやや狭くなったか。市野沢まで行くと正面の谷間に飯豊連峰が見えてくる。真っ白だがとてもなだらかな稜線に見える。


林道樽口峠線に入って少し行ったところ

次の足水中里の集落では県道15号線から分かれる。田んぼから澄んだ蛙の声がしてくる。トチノキがクリーム色の花を咲かせている。そこから勾配はやや急になる。道沿いにはタニウツギ、トチノキ、ホオノキなどの花が多い。麓にはよくあったヤブデマリはもうない。

最終集落である樽口からも飯豊連峰の稜線は見える。じりじりと上り続ける。日陰がなくて暑い。


林道樽口峠線に入って少し行ったところ

やがて道は右に折り返し、山腹に上りつく。ここから林道樽口峠線で、本格的な峠道の始まりでもあるというわけだ。さっき走った道を見下ろしながら上っていく。ちょっと驚いたのは、まだユキツバキが鮮やかな赤い花をつけていたことだった。また路側の斜面には少しだがヒメシャガがあった。

前回来たときは背後に朝日連峰が見える地点が1箇所だけあったのを覚えているが、今日はもやのせいなのだろう、朝日連峰を見ることはできない。

やがて樽口峠の木の標柱があり、正面に飯豊連峰が開ける。まあここがゴールではないことは前回の経験で知っている。あと少しペダルを踏み、鞍部へ。


鞍部からの飯豊連峰の眺め

鞍部には広い駐車場があり、正面に飯豊連峰の広々とした展望が開ける。まず、左の方の手前の尾根に隠れそうなところに飯豊山と大日岳がある。

正面やや奥の両肩が真っ白な山が北股岳。その左手の谷が万年雪で知られる石転び沢。

右端に少し離れているのが朳差岳(えぶりさしだけ)。


鞍部で北股岳と石転び沢を背景に

この写真では、向かって右側が北股岳で左側が烏帽子岳。中央部の(サドルの真上あたりの)雪渓が石転び沢。

昼食とする。鞍部の左側にテントがかけてある一角があり、その下で陽射しを避けながらだ。広い鞍部をびゅうびゅうと風が通り抜ける。

それにしても、いい天気の土曜日だというのに、ここは無人である。通りかかる人もほとんどいない。ここまで走ってきた道沿いにあったわらび園は、基本的に日曜日と水曜日が開放日のようだから、そのせいかもしれない。このテントはおそらくわらび園の客に味噌汁か何かをふるまうためのものなのだろうが。


下りの道

出発。狭いくねくねした道を下りる。鞍部の眺めから想像がつく通り、最初のうちは左側の飯豊連峰の眺めがよい。道幅は狭く、見通しもかなり悪いので注意が必要である。


長者原付近

下り終えて川の右岸を進んで長者原に出る。ここから少し入ったところにある国民宿舎梅花皮(かいらぎ)荘では入浴ができ、昼食をとることもできることは知っているが、それほど時間があるわけでもない。このまま行こう。

軽いアップダウンのある広い静かな道を行く。行きの道よりも開けた感じがある。ときどき背後に飯豊連峰が見える。

しばらく進んで朝に分かれて玉川を渡った交差点までたどり着く。標高は130mあまり。おれはここで再度右折して朴木峠を目指したが、とりあえず樽口峠の話はここまで。

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2007年8月31日初版 / 2015年1月29日差替