貉ヶ森山
淋しくも爽やかな県境の大物峠
読み方 | むじながもりやま | |
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標高 | 1160m | |
位置 | 福島県大沼郡金山町・新潟県東蒲原郡阿賀町 | |
道路 | 林道本名室谷線 | |
水系 | 阿賀野川 | |
実走日 | 2006年10月15日(日) | |
地図など | Google Maps・地図院地図 |
貉ヶ森山は、福島県の只見川の流域と、そのはるか下流にあたる新潟県の東蒲原郡とを隔てる尾根にある、あまり有名でない山であるが、ここで紹介するのは、その山頂の近くで県境の尾根を越える唯一の車道の峠道である。山の折り重なる風景、静かな雰囲気、まだまだ残るダートなど、いわゆる大物峠の資格は十分にある。
実際のところ、この峠道は通行止だった。おれが抜けられたのは単に執着心(6月にも越えにきたが雪でダメだった)と蛮勇と幸運のおかげなので、良識ある峠野郎の方々は道路情報を確認の上、通行止の場合にはぜひ真似されないように。
この峠道の福島側の入口は金山町の本名ダムである。標高は310mほど。国道252号線から分かれる地点からいきなりダートである。林道名の標柱や会越街道などと書かれた標柱がある。
しばらくは砂塵の舞い上がる走りやすいダートである。最初だけダム湖の脇を走り、途中から霧来沢沿いの上りになる。沢沿いの上りとはいっても山腹を走るような感じであり、ちょっとしたスケール感がある。
途中に舗装区間もあり、勾配も緩いのでさくさく進む。橋を渡って折り返すあたりの標高は420mあまり。地図上は相当進んでいるのだが標高は全然稼いでいない。
橋を渡ってすぐ、この先融雪災害のため通行止という旨の掲示があった。無視したわけだが、あとでこの掲示の内容通りの事実に直面することになる。
ここからの上りはけっこうきつい。最初はダートだがやがて舗装になる。通行のほとんどない淋しい山道である。黒褐色のあまりきれいではないホオノキの大きな落ち葉がアスファルトの上に散らばる。トチノキも多いが、こちらもあまり黄葉は美しくはない。
南側の眺めはまずまずよい。激しいヘアピンを上っていくとやがてダートが始まる。もう砂塵のダートではない。岩盤剥き出しもあればぬかるみもある、けっこう難儀なダートだ。いったん840m付近で小さい鞍部を越えて下り始める。正面には御神楽岳(みかぐらだけ)がどんっと迫ってくる。多雪地帯らしく斜面はハゲだらけ。
790m程度まで下ってまた上り始める。標高870m地点は6月に雪のためにそれ以上の進行をあきらめた地点(2006年9月1日の表紙写真参照)。万感の思いとともにそれを通過するわけだ。まあ、察してください。
標高1000m付近で再度鞍部を越えるのだが、それまではところどころで御神楽岳の眺めがある。静かな紅葉の山、美しい山、適度に荒れたダート。東北ではどこにでもありそうな道にも思えるけれど、とにかく、いいものだ。
さてここまで来ると鞍部はもう少し。気分は上々。間近に紅葉の県境の尾根が迫り、そこを陽射しと雲の影が撫でる。振り返ると名前はわからないが奥会津の山々。カシミール3Dで描かせてみると磐梯山とかも見えるらしいがこの日に見えていたのはもっと手前の山だけらしい。
さてついに県境の鞍部に到着。木製の県境の標柱があり、標高1130mとも刻まれている。チェーンによる簡易なゲートもある。きのこ狩りの車が数台停まっている。オフロードバイクが果敢にもチェーンの脇をすり抜けて進んでいく。
ここから先もまだ少しの間上りが続く。その上り自体はどうということはないのだが、道がすごい。道の中央に雨水が流れて掘れた溝ができており、その深さが数十センチもあるので、とてもペダルで上るとかいう次元のものではない。こりゃ清風山だろ! しかたがないから押して進む。
幸いその区間は長くなく、道が1160mの最高所を越えて下りに転じて少し行くと少しまともな道になった。右手に広々とした谷の風景が広がり、前方には谷の開けた先に幾重にも折り重なる山並みが見える。途中には路肩が崩壊して一本橋状態になっている箇所もあり、慎重に進む。
さて鞍部でおれを追い抜いていったオフロードバイクが戻ってきて、この先工事やってて抜けられない!と教えてくれた。そうは言われてもここまで来て簡単にあきらめられるものではない。
なおも下ると確かに道にロープが張られ立入禁止となっていた。見ていると重機は置いてあるが静かだ。どうやらお昼休み中らしい。突破を決定し進むのだが、途中には重機の脇をギリギリですり抜けなければならないような箇所やら、人ひとり+自転車1台だけでぐんにゃりたわんでしまう鉄骨一本橋やら(まあ高くはないのだけど)があり、肝を少し冷やす。
現場を過ぎて少し行くと飯場がある。ごめんなさい、突破しちゃいました。テヘっ☆……ではすまないことのような気もするけれども、舌を出して脱兎のごとく駆け下りる。
工事現場を過ぎて少し行くと道はコンクリート舗装になり、さらに行くとアスファルト舗装になる。これは走りやすい。通行量自体は少ないが、道端で昼食を取っているきのこ狩り集団は多く見かける。福島側にはなかったスギ林がこちら側にはある。
室谷川沿いに出たあたり(標高300m付近)で道は再びダートになった。これは相当ひどい道である。道幅全体を覆う水溜りがあるのには面食らう。水溜りの途中で停止することになったら大災害だが水は茶色く濁っているので深さもわからない。運を天に任せて突っ込むのみ。
室谷川の左岸に渡ると再び道は舗装に。ワンアップワンダウンして進む。やがて林道と県道の分界点の標識を過ぎて、この長い峠道は終わる。
室谷の集落の標高は200mほど。相当に下ったのだが、この地域の中心街である津川までは20km近くある。津川駅まで行けば標高は57.6m。その途中のみかぐら荘などの温泉で汗を流すのもよかろう。というかよかった。
2006年11月10日初版 / 2010年4月7日更新