大越

明るく密やかな大物峠

標高910m
位置山形県西村山郡西川町・鶴岡市
道路国道112号線
水系最上川・赤川

実走日2015年7月12日(日)
地図などGoogle Maps地図院地図

大越は最上川の大支流である寒河江川の川筋から庄内平野に抜ける途中にある峠で、月山と湯殿山のある稜線を(その両者よりも西側で)越える。道路地図を見ているだけで大物峠という感じがするが実際そうである。しかし狭苦しい谷とか重厚な雰囲気とかそういう(おれが勝手に想像していった)ものはあまりなくて、明るく開放的でしかし地味な、北国の峠という雰囲気だった。

自動車専用道路である月山道路という新道が開通しているおかげで、峠道がまずまず静かなままに保たれているのはいいポイントだろう。

豪雪地帯にある峠なので、春に越えることはできない。おれが行った2015年には6月末近くまで冬期閉鎖だったと思うが、おそらく毎年同じ頃まで通れないだろう。夏は夏で暑いので、なかなか行きにくい。

峠名の読み方がおおこしなのかおおごしなのかは判然としない。どちらでもいいのかもしれない。いずれにせよおおごえなどではないのは確かなようだ。

弓張平への上り

おれは地蔵峠から下りてきてこの峠の南側にある月山湖の脇に出た。県道27号線で山形道の大井沢橋の下をくぐって国道112号線に突き当たり、右折して大暮橋を渡って、次の分岐を左折する。標高は410mほど。ここから弓張平までは距離は短いが一気の上りという覚悟である。

月山湖は寒河江川のダム湖。ダムの名前は寒河江ダム。どうでもいいががっちゃんこという単語を連想してしまう。

道幅は2車線ある。いきなり狭苦しい斜面を折り返して上り始める。交通量は少し多めだが、我慢しなければならないだろう。

少し上っただけで、南側の彼方に(白馬三山のようにボコボコした稜線の)朝日連峰が再び見えてくる(再びというのは、地蔵峠の下りで朝日連峰を見ることができたから)。月山湖を見下ろすこともできるが、全体としてはそれほど眺めがいいわけではない。路傍には昨日の山毛欅峠に続いてオカトラノオが群生しているところがある。

この写真には朝日連峰は写っていないが、月山湖の湖面は写っている。


弓張平公園の入口

勾配標識があり、10%、10%、8%と3連発するが、何だか予想していたほどはきつく感じない。やがて植物園入口を過ぎて弓張平公園の入口の分岐に到着する。正面に月山と湯殿山を見る。標高は568m。

ここの分岐はどちらが国道なんだろうと地図を見比べて疑問に思っていたが、現地の標識によれば、右にそれて公園の中を通っていく方が国道だった。別に公園に用があるわけじゃないが、おれも右にそれる。


振り返って朝日連峰を見る

そこからは弓張平公園だが、それほど高原然とはしておらず、広々した感じはそんなにはなく、じりじりとした上りも続く。この公園は、キャンプ場もあるが、野球場や陸上競技場やテニスコートもあって、こんな山の中にそんなものを作ったって不便じゃないのかよと思うのだが、それは自転車乗りの発想にすぎないのかもしれない。あるいは、夏の山形では、このくらいの標高がないと屋外競技などやっていられない、ということなのかもしれない。

そういった、ネットを張り巡らせたグラウンドや、普通の民家などが散在する、とりとめのない風景の中を上る。相変わらず正面は月山と湯殿山で、振り返ると朝日連峰がまた姿を見せている。

この(白馬三山のようにボコボコした稜線の)写真は朝日連峰で、中央付近から右に向かって、大朝日岳、中岳、西朝日岳が並んでいる。左に離れているのは小朝日岳。

パークプラザという大きい建物を過ぎると弓張平公園は終わりだ。林の中を行く。鳥のさえずりがすごい。一方で、昨日の山毛欅峠と比べると、この峠道では全然水音を聞くことがないなと気づく。


月山

少し上ると志津の明るく小さな温泉街を過ぎる。右手に五色沼という小さな池がある。裏磐梯の五色沼は池の集合体の名前だが、ここの五色沼は単体の池なのだった。少なくとも、通りすがりの目には、五色には見えない。

このあたりからやや道は狭めになる。やがて標高750m地点付近で月山スキー場方面への道を右に分ける。下からやってくる自動車はみなそちらへ行ってしまうようであり、その先はとても静かな道になる。

カラマツか何からしい針葉樹と、おそらくはブナであろう広葉樹の明るい林の中をくねくねと進む。背後には大迫力の月山が見える。ここまで来ると近すぎて湯殿山は見えない。朝日連峰ももう見えない。

道端から、茶色くてスリムでしっぽがふわっとしていて耳の小さい動物が路面に出てきて、あわてて引っ込む。今調べるとイタチらしい。


緩い勾配を上る

このあたりまで来るともう勾配はかなり緩い。たらたらと進んでいくと左手の広い谷から自動車の騒音が聞こえてくる。月山道路のトンネルの真上を通過するあたりのようだ。

この道路にも小さいながら削り落とした法面はあるが、そこにあるのはイタチハギではなくイタドリだ。そういえばタニウツギも見かける(もちろん咲いていないが)。やはりこうだよ、と勝手に納得する。山毛欅峠地蔵峠の植生はやっぱり変で(おそらくは緑化工事のせいで)、これが本来の植生だよ、と思う。もちろんいい悪いは別の話として。

確かこのあたりではミズバショウも見かけたように記憶しているが、咲いている時季にここを通るのは無理だろう。


鞍部ウラジロヨウラク

やがて鞍部に到着。浅い切り通しで、法面にはウラジロヨウラクが咲いている。

ウラジロヨウラクは決して珍しい植物ではないはずで、春の新潟の山でもよく見かけるのだが、正確にはおれが新潟で見たことがあるのは変種のガクウラジロヨウラクだけである(がくが長い)。

この鞍部には何の看板もないが、路面に薄く西川町などと書いてあり、町界であることはかろうじてわかる。いずれにしても拍子抜けするほどのあっさり風味であることは否定できない。


広い谷を見下ろしつつ行くドクウツギ

さて出発。左に広い谷が広がる。その谷底遠くにトンネルが口を開けているのが見える。このときは月山道路だろうと思ったのだが、今調べるとこれはあさひ月山湖の対岸の道だ。また彼方には庄内平野の切れ端も見えている。

月山湖とまぎらわしいが、あさひ月山湖は赤川の大支流である梵字川のダム湖。ダムの名前は月山ダム。

途中では道端に写真で見たことのある赤い実を発見する。これはっ……ドクウツギ! 本物を見るのは初めてだった。


振り返って月山を見る

人気のない道を下っていく。ガードレールはなく、建っているポールもけっこうぐらぐらのものが多い。

しばらく行くと少し広くなった箇所があり、湯殿山への上り口になっている。脇には大きな建物があるが廃墟のように見える。自転車は下るなら左折しないで直進してください、というような看板が出ている。左折すると月山道路(上記の通り自動車専用道路)に入るしかなくなってしまうからだが、なかなか親切だ。

さてそこからも1.5車線ほどの細い道を下っていく。林の中だが左の谷の眺めもまだちらちらある。鳥の声がするくらいで静かなものだが、月山道路の上を通るところが2箇所あり、その付近は少々うるさい。なお、峠道全体がそうだが、まだ赤くなっていない赤とんぼがけっこういる。標高が下がるに従って、道端には水色のエゾアジサイが増えてくる。


田麦俣を見下ろす

綻沢(ほころびさわ)のあたりでは道は少しだけ上るがたいしたことはない。やがて七ツ滝沢を渡る。その時点では涼しげな水音がするだけで滝は見えない。ここにもオカトラノオが群生している。

そこから少し行くと右カーブの外側に小さい公園があり、ここからは七ツ滝を見下ろすことができる。一方で振り返ると北側には田麦俣の集落を見下ろす。集落を挟んで向こうの斜面の上方を月山道路が通っており、けっこう交通量がある。地図上は狭苦しい谷間にある集落を想像していたが、夏の陽射しの下、開けて明るい感じがする。考えてみると、それはこの峠道全体についてもそうだが。


あさひ月山湖を前景に月山を見る

おれは田麦俣で月山道路に合流するのをよしとせず(と書くと何だかかっこいいが)、田麦俣の集落に入ったあたりで左折してあさひ月山湖の湖畔にいきなり下りるルートを選択した。きれいな舗装のワンアップワンダウン(アップは緩いがダウンはきつい)で、あさひ月山湖に架かるT字型の変な橋(あさひ月山湖大橋)に出る。その途中にはオオバギボウシとオカトラノオの群落があり、どちらもこの地方のこの季節の山では少しも珍しくはないのだなとわかる。

湖畔を行きつつ、橋の上で振り返ると、月山が優美な姿を見せている。山を下りてきてこうして振り返るのはいつでもいいものだ。月山と大越を同一視するのはちょっとどうかというのはまあ措いておくとして。

月山の標高は1984mもあり、大越の標高はその半分にも満たない。

ここの標高は270mほど。ダムから下りて国道112号線に合流してもまだ180mあまりあるが、そこから少し下ればもう庄内平野が開けてくる。

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2016年1月14日初版