母成峠
高原の古戦場の峠
読み方 | ぼなりとうげ | |
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標高 | 960m | |
位置 | 福島県耶麻郡猪苗代町・郡山市 | |
道路 | 福島県道24号線 | |
水系 | 阿賀野川・阿武隈川 | |
実走日 | 2010年11月20日(土) | |
地図など | Google Maps・地図院地図 |
母成峠は、郡山市郊外の磐梯熱海温泉から北に進んで、猪苗代湖に注ぐ酸川の上流域に抜ける道にある峠である。なかなか利用価値のある峠道だろうとは思う。なおこの道路はかつては有料道路だった(母成グリーンラインという名前で。もっとも、名前自体は無料化後も使われているかもしれない)。
この峠は、一般的には、戊辰戦争時に新政府軍が守備側の裏をかいて会津藩領に侵攻した峠として、広く知られているのではないかと思われる。おれも(隣県である新潟県の出身ということもあるだろうが)小学生の頃からこの峠の名前は知っていた。
上記のように侵攻路であったことを考えると、熱海から上った方が雰囲気は出るのかもしれないが、おれは(弱々しくも)標高差の小さい会津側から上った。
猪苗代町の川桁駅(標高は526.9m)から県道323号線で北上する。最初は正面に、そして徐々に左側に位置を変えながら、磐梯山がよく見える。頂上直下にはぽつぽつと白い雪が見える。道路の左側の田んぼではハクチョウが集団で落穂をついばんでいる。
ところで、川桁駅はかつての沼尻軽便鉄道の起点であり、駅前には立派な石碑があったりもするのだが、おれが走っているルートはその廃線跡にあたるらしく、ところどころに懐かしの沼尻軽便鉄道を訪ねてというシリーズの案内看板がある。真新しく、写真も入った凝ったものである。旧北陸本線の山中峠の例といい、廃線跡めぐりはかくもメジャーになったのか。
やがて国道115号線に合流する。交通量はやや多い。ここにも沼尻軽便鉄道の案内看板が続く。酸川野停留場跡はイチョウの落ち葉で真っ黄色だ。
背後には磐梯山が見え、こちらから見るとそこそこ雪の量は多そうに見える。正面にはこれもまた少しばかり雪化粧した安達太良山が見える。
木地小屋と大原では国道を左にそれて集落の中を行く。民家の軒先には白菜がたくさん積まれている。ここまであまり勾配はなかったが、大原からは勾配は急になってきた。
大原を抜けて今度は国道の右にそれて上る。横目で見る国道に沼尻駅前という地名の標識があるのが面白い(とうの昔に廃線だから)。すぐに道は県道24号線にぶつかる。ちょうどそこに沼尻駅跡の看板がある。沼尻軽便鉄道の終点である。標高は700mほど。
ある意味ここからが純粋な母成峠の登坂である。あまりきつくはないがじりじりと上る。少し行くと中ノ沢温泉の温泉街がある。それを過ぎると冬枯れの峠道だ。背後にまた磐梯山が見えてくる。川桁のあたりで見ていたよりも、当然大きくは見えないが、かえって高くそびえているような感がある。
しばらく行くと左手に牧草地が現れる。牛に注意の標識もある。北側に吾妻山の眺めが出てくる。広々とした景観だ。どことなく白沢峠の白馬側に雰囲気が似ている。なお、牧草地には路面よりも高いところが多いので、入ることができれば眺めはよさそうだが、当然ながら立入禁止である。
勾配のきつさにはややむらが出てくるが、緩い勾配であることは変わらない。楽しい気分で進むと左に戊辰戦役東軍殉難者慰霊碑 ←入口100Mとか財団法人自然植生観察園 万葉の庭というような看板が出ており、ダートの道が分かれている。まずは素通りして進む。すぐに左への分岐があり、広い駐車場がある。ここが鞍部のようだ。
ちなみに、おれが持っていた地図では、鞍部の直前で道は二手に分かれていた。左手に分かれる道が上記の駐車場への分岐にあたるわけだが、その先は封鎖されていた。
駐車場は広いががらんどうで不気味なほど静かだ。そして北東側には吾妻方面の山々と高原の同様に静かな眺めがある。磐梯山はもう見えない。
見えている山々のうち、右端近くに見える高い山は東吾妻山。中央付近の高い山は中吾妻山。そしてその尾根を左に行くと西吾妻山、西大巓と続く(こうしてみるとストレートな山名だなあ)。
さらにその左の一段低い山は梁部山で、その手前側の麓には小野川湖と秋元湖があるはずだが、母成峠と湖面の標高差はあまりないので、もちろん湖面は見えない。
さて、そういった眺めを背景として、駐車場の隅には戊辰戦役 母成峠古戦場の大きな石碑がある。西軍3000を東軍800が迎え撃って敗退、という解説が書いてある。
戊辰戦争って西軍東軍って言うんだっけ、とこのときは思ったのだが、その後会津めぐりをしているときには随所でこの表現を見かけた。
あとは熱海に下るわけだが、その前に先ほど素通りした慰霊碑を見に行くことにする。ダートを少し行くとアンダーパスになっていて県道の下をくぐり、すぐに駐車場がある。少し歩けばやや薄暗い林の中に慰霊碑がある。傍らには母成峠の戦いについて詳しい説明のある看板や東軍殉難者埋葬地もある。多少でも歴史に興味があればここは立ち寄るべきだろう。
なおこのそばには万葉の庭の入口もある。いろいろな草花が植えてあるということだが、さすがにこの時季なのでパスしておく。ちなみに入場は有料である。
下りも上りと似たような道だが、牧草地や遠くの山を眺めるような区間はない。地図ではワインディングが目を引くが、勾配は急ではない。路面には例の縦の溝が彫ってあるが、けっこう古いものらしく、溝が残っていないところもある。カラマツの林があり(上りにもあったが)、路肩に落ち葉がたまっている。
おれが持っていった昭文社のツーリングマップル東北(2004年版)によると、こちら側では安達太良山が見えるらしい。下っているときのおれはそれを全然気にしなかったし、気づきもしなかった……ということは告白しておこう。
ふれあい牧場のあたりからはぽつぽつ人家がある。やがて磐越道の下をくぐり、磐梯熱海インターチェンジの入口を過ぎて、軽く上って下って熱海に到着。谷間の温泉街だが、先ほどの高原の空気にどこか似て、広々とした印象がある。磐梯熱海駅の標高は313.2m。
2011年2月3日初版 / 2015年1月8日更新