獅子越峠

不思議な展開を持つ静かな県道峠

標高1000m
位置愛媛県上浮穴郡久万高原町・喜多郡内子町
道路愛媛県道52号線
水系仁淀川・肱川

実走日2009年6月17日(水)
地図などGoogle Maps地図院地図

獅子越峠は、やや説明しにくいが、瀬戸内海側に属する内子の町からずっと川を遡っていって、太平洋側に属する面河川の川筋に抜けるところにある峠である。

一言で言って、この峠は面白い。どの辺がかというと、まず前後の非対称性が挙げられる。峠の南東側(面河川筋側)がとても緩やかであるのに比べて、北西側(内子側)は急峻な断崖絶壁である。そして、峠の南東側の、そこに峠があるとはちょっと思えない雰囲気もいい。濃い緑と清流もまたいい。

この峠の読み方は、かつて存在した「ウォッちず」地名および公共施設名による検索によるとししごえとうだったのだが、気象庁のアメダス観測地点の名前はししごえとうげである。普通なら前者を取るところだが、峠をとうと読むならば地形図上でも振り仮名があるはずで、「地名および公共施設名による検索」のtypoなのではとも思える(他にも多いし)。そういうわけで、読み方は未確定にしてある。

内子町の町域に入ってから少し行ったあたりの道

おれは地芳峠から下ってきて久万高原町の古味(標高は約570m)からこの峠を目指した。

最初は味のある山村集落と渓流沿いの道が続く。道は広いところもあるが1車線が多い。途中で黒川を渡ると集落はなくなる。やや明るい林の中の上りだ。ウツギ(地芳峠参照)やコガクウツギ(どちらかというとガクアジサイに似た白い花)の花が目立つ。

交通量はとても少なく、楽しい気分で上る。やがて内子町の町域に入り、少し行って道は折り返す。そこからは少しの間道は下りである。単に、川の幅が狭まるのを待つために支流を遡ったということらしい。

手許の1996年版の昭文社のツーリングマップによると、内子町の町域に入る前後は当時ダートだったようだ。比較的新しい舗装路ということになる。


みやま荘付近の黒川の渓流

この道はところどころにみやま荘という宿泊施設の案内看板が出ている。こんなすごい山の中にそんなのあるのかという感じだが、ちゃんとそれはあった。

道路の右側の渓流沿いに建物があり、キャンプ場もある。トイレはきれいそうだ。何となく周囲の雰囲気は田口峠の狭岩分校跡のあたりに似ている。

自転車を停めて渓谷に出てみる。おそらくはカルストに関係あるのであろう灰色の岩を、澄んだ水が噛んで流れている。そして木々の緑もまぶしい。

みやま荘を過ぎて少し行くと五色河原という立札が出ており、ここの渓谷美も見事である。


淵首付近森の学校付近の黒川

少し行くと、地形図に淵首という地名の載っているあたりで、ほうじが峠に行く県道340号線を分ける。ここには何軒か同じような外見の木造平屋の建物がある。出光の剥げかかったペンキが見える給油所の跡地もある。これは廃村なのか。あるいは森林管理署の拠点か何かなのか。いずれにしても人気はない。

さらに進むと道路沿いに森の学校という施設があった。どう見ても廃校を転用した建物である。これほどの山奥だが、昔は人がたくさん住んでいたのだろうか。峠をはさんでいるのにこちらまで内子町だというのも、何か事情がありそうに思える。

ここはかつての小田町(上浮穴郡)の町域だが、そもそも小田町の中心街もやはり峠の向こう側にあった。


鞍部

峠は近づいているのにいっこうに斜面を折り返す上りとかにはならない。ぽつぽつ建物があったりもする。深山の清水という看板が出ていて樋が引いてある箇所があったが、水はちょろちょろとしか出ていなかった。

しばらく緩い登坂を続けると道が広くなり、目の前が開けてスキー場のゲレンデが見えてくる。スキー場とはいってもチャラチャラはしていない、でも小ぎれいな、緑の屋根の木造の施設が何軒か建っている。山中にふさわしくない並木のある歩道が始まる。そして何よりも人気は全くない。


獅子越峠の看板

並木と歩道を見ていると、峠から麓に下りてきたような気さえしてくるが、ここが鞍部である。しかも四国の中央分水嶺の(そんな呼び方をするかどうかはあれとして)。

この様子だと峠であることなど無視し去られていそうにも思えたのだが、ちゃんと獅子越峠の立派な木の看板もあった。

ちなみにこの写真にも少し写っているが、鞍部から北側への眺めはとてもよい。


内子側への下りの道

さて下りは鞍部と同様のいい眺めがある。右手に小田川の刻む谷の山腹に立地するぽつぽつとした集落が見える。密やかな感じのない明るい風景である。

道はそれをところどころで見ながら豪快に下るが、広くはないので慎重さが必要である。標高差があるのでなかなか麓に着かない。最後には打木の集落の中をすり抜けて高速で下っていく。ヤビツ峠を思い出す。

宮原で小田川にぶつかったところで峠道は終わる。標高は240m。何となく、ここまで来れば平野の片隅なのだろうと思っていたのだが、そんなことはなく、風景は山深い。それは川沿いに内子の中心街まで行っても同じである。内子駅の標高は70.4m。

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2009年9月24日初版 / 2015年1月10日更新