湯峠
寂寥感の支配する長いダートの峠
読み方 | ゆとうげ | |
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標高 | 1280m | |
位置 | 長野県北安曇郡小谷村 | |
水系 | 姫川 | |
実走日 | 2006年9月30日(土) | |
地図など | Google Maps・地図院地図 | |
関連書籍 | 信州百峠・峠で訪ねる信州 |
湯峠は、乙見山峠の西麓である小谷温泉から、一気に姫川本流域に抜ける道の峠である。乙見山峠とセットで制覇しようとする自転車野郎は多かろう。そういう際にはこの峠は乙見山峠のおまけのように見えるかもしれない。だが湯峠をなめてはいけない。
と言うのは、この峠の姫川本流側はかなり長くしかも走りやすいとは言えないダートだからである。言うまでもないがそちら側の高度差は相当ある。そのうえ乙見山峠の小谷側に輪をかけたような淋しさが充満している。
乙見山峠から下ってきた道は標高980m付近で突き当たりに出る。旅館が1軒ある。左折すれば小谷村の中土に出る。右折が湯峠である。
おれは東京から日帰りで乙見山峠と湯峠を越えに来ていて、それで時間があまりなくて少し気がせいていた。いちいちこんなことを書くのは、この項に書くおれの感想がそれと無関係ではないからである。
さて最初は1.5車線の普通の山道が続く。背後の山の眺めがいい。ありふれているようだが、高い山と深い谷の眺めにはなかなかスケール感がある。
やがて進路が西に向くと空は雲に覆われてきた。いい予感はしない。
鎌池のあたりは林の中だが、それを過ぎるとじきに空の広い高原上の風景に。人気のしない山また山の地面の上に、西側の尾根から結婚式の演出か何かのように霧が流れてくる。陽も傾いてきている。前進するのにかなり勇気がいる状況だ。これを書きながら振り返ると滑稽だが。
鞍部には小さな駐車場があり、その先にゲートがあって、そこからダートが始まる。これまた予想外だった。時間がないのにダートとは……。
この峠に来ることはもうないだろうし、皿までいっちゃいますか、と半ばやけっぱちな気分でその霧のダートに飛び込む。もちろん通行は何もない。霧は濃淡あるが濃いときは視程は30mくらいだ。
そして問題は路面。地面に大きい岩がそのまま埋まっている。つまりガタガタ道である。これはかなり難儀だ。そしてところどころに道路を斜めに横切るようにゴムの板が縦に埋め込んである。これはつまり水が路面を洗掘せずに谷側に流れていくようにするためのものだろう。自転車で下る分にはどうということはないが、上るときには相当邪魔そうである。
一部の道はぬかるみになっており、ペダルも靴もどろどろになる。さらには軽いのだがアップダウンがあり、堪忍袋の緒が切れそうになる。
霧の中を抜けて、少し視界が開ける。ぽこんぽこんとした特徴的な稜線が、前方から右手の谷の向こうに続く。ここでも谷は深く、山はとても高い。天気が良ければ雨飾山が見えるはずであるが。
やがて路面はいくらかよくなってきたが、今度は幅15cmくらいの排水溝が道路を横切るようになる。高速で通過すればすぐバーストだから、手前で減速しなければならない。とにかく気を使う道が続く。
林業の作業小屋のようなものを過ぎ、おそらく標高700mあたりからだろうか、真新しい舗装路が始まる。しかしじきに道はコンクリート舗装のガタガタ道に。岩井堂峠の親沢と同じパターンで、麓側は早くに舗装してしまったというものだろう。やがて笹野の集落のあたりからは普通の舗装に戻る。
姫川の谷底の平岩で峠道は終わりである。大糸線の平岩駅の標高は264.2m。おれは列車の待ち時間に500mほど南側のホテルの温泉に入りに行った。
2007年3月11日初版 / 2010年4月7日更新