田口峠
上信国境の未整備で閑雅な峠
読み方 | たぐちとうげ | |
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標高 | 1110m | |
位置 | 群馬県甘楽郡南牧村・長野県佐久市 | |
道路 | 群馬・長野県道93号線 | |
水系 | 利根川・信濃川 | |
実走日 | 2003年4月18日(金) | |
地図など | Google Maps・地図院地図 | |
関連書籍 | 信州百峠・峠への挽歌・峠で訪ねる信州 |
田口峠は佐久と甘楽を隔てる峠のひとつである。古くから利用されてはいたそうだが、現在はローカル県道に転落。そこに残されたのは、味のある山村集落、清冽な水の洗う渓谷、奇岩奇峰、フルターンのヘアピン連発の未整備な道路、そしてそれでいてどこか穏やかな雰囲気。これで素晴らしい峠にならないわけがないが、いや実際素晴らしい峠なのだ。
この峠の楽しさを味わうには、やはり高度差のある群馬県側から上るのがいいと思う。あと、この峠は書籍峠への挽歌にも取り上げられているので、読むことをおすすめする(宣伝になるけれども、実際に読んで感銘を受けたので)。
この峠の群馬県側の麓に位置する南牧村の中心部の標高は350m。田口峠へは800m弱の上りである。
南牧村を東西に貫く県道93号線を西に進む。平日の朝だからか、けっこうたくさんの車とすれ違う。集落はほとんど途切れることはなく、過疎という言葉とは無縁の活発な村に見える。実態がどうかはわからないが。
勘能(標高約500m)で右折し、直進して熊倉へ行く道と別れ、馬坂川をさかのぼっていく。ここまで来ると完全に山間路。いつのまにか交通量もほぼ皆無になる。勾配はけっこうきつい。馬坂川の刻む深い渓谷がなかなか美しい。途中、対岸に急斜面の段々畑がありこれも印象的だ。
標高670m地点付近で、行政区画は群馬県の南牧村から長野県の佐久市(当時は南佐久郡臼田町)に移る。いきなり臼田建設事務所の第1号カーブの標識がある。この周辺の峠はみな群馬県側から番号を振っているようである(十石峠とぶどう峠もそう)。
その第1号カーブのあたりで、馬坂川の対岸に2階建ての廃墟を見つけた。おうっ、これは峠への挽歌に出ていた田口小学校狭岩分校の跡ではないか。自転車を停めて中を探検してみる。中はひどく荒れ、ところどころ床も抜け落ちている。ウグイスの声と瀬音のみが聞こえる。
峠への挽歌では、この廃墟の中の黒板に残された落書きが紹介されているのだが、残念ながらおれはそれを発見することはできなかった。
外に出ると青空がまぶしい。校庭らしい広場があるから、キャンプには適しているかもしれない。多少サイコなテン場だが。
さて出発である。見上げるような断崖の狭岩を過ぎてトンネルを抜け進んでいく。広川原の集落を過ぎ、どこまでも人気のないワインディングを上っていく。やがて前方にこれから上る道のガードレールが見えてくる。
写真の撮影地点の標高は910mほど。道は、ここから左旋回しながら撮影者の背後を通り、さらに左旋回しながら、正面のコンクリートの被覆の付近にある鞍部のトンネルにたどり着く。そこまでは標高差でいうと200m。すぐなような気がするのだが、実はこれがまたけっこう長い。
この峠道は、上るにしたがってカーブは増えてくるが勾配はむしろ緩くなる感じだ。やさしき峠道である。妙義荒船の流れをくんだバキバキした稜線と、はるか東の茫洋とした山影と、足元で冗談のように折り重なってうねる道路の景観を楽しみながら走る。
なお、この写真だけで道路は5段写っているわけだが、実際にはこの前後にもヘアピンカーブが連発している。5万分の1地形図だと書き切れずに一部端折られているほどだ。
トンネルを2つくぐり、最後のヘアピンをクリアすると、第93号カーブのすぐ向こうに鞍部のトンネルが口を開けていた。大きな木の峠標柱がある。
なお、この付近には田口峠園地といって、東屋などもある散策できるスペースが設けられているが、野営はしないほうがいいだろう。というのは、信州○○軍団参上的な落書きが、上記の峠標柱やトンネルの内壁にたくさん書かれていたから。
書籍峠で訪ねる信州によると、木の峠標柱は、この写真のものから建て替えられたようである(つまりは2003年から2006年の間に)。もっともあまり雰囲気は変わらない。
トンネルの群馬県側の眺めは、山ばかりの茫漠としたものだがなかなかのものだ。いちばん目立つとがった山は立岩だ。写真には写っていないが、平たいテーブルのような両神山も目立つ。
トンネルの向こうの長野側は、おおむね2車線緩勾配の快適な道路が続く。走っているとゆっくりと目の前に谷が開けてくるのだが、その感じがいかにも信州的だ。残雪をいただいた、雄大な浅間山や蓼科山や八ヶ岳が徐々に近づき、信州に帰ってきたのだと思わせる。このような、峠の東西での景観の違いも、この峠の魅力のひとつだろう。
臼田の市街地まで下ると、標高は700mあまりとなる。そこまでの間に、異様に水の色の美しい雨川ダム湖や、静かな龍岡城五稜郭など、渋めだが見逃したくないスポットもある。
2003年4月26日初版 / 2015年1月8日更新