大平峠
水の気配が漂う旧街道の峠
読み方 | おおだいらとうげ | |
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標高 | 1340m | |
位置 | 長野県木曽郡南木曽町・飯田市 | |
道路 | 長野県道8号線 | |
水系 | 木曽川・天竜川 | |
実走日 | 2003年9月22日(月) | |
地図など | Google Maps・地図院地図 | |
関連書籍 | 信州百峠・峠で訪ねる信州 | |
同名峠 | 大平峠(新潟県) |
大平峠は南木曽町と飯田市を結ぶ大平街道の峠である。大平街道にはこの大平峠と飯田峠という2つの峠があり、その2つの峠の間に大平という集落がある。南木曽町市街と大平の間にあるのがこの大平峠だ。
その昔はかなり往来のある峠だったそうだが、現在はその役割を国道256号線の清内路峠に譲り渡し、忘れ去られかけた峠道に……と、青木峠のような境遇である。ただ、細々と改良工事が続いている青木峠とは違い、この峠が改修される可能性はあまりないだろう。
なお、この峠は、木曽峠という名前で呼ばれることもある。単純に、木曽側から見れば大平へ行く峠だから大平峠、大平側から見れば木曽へ行く峠だったから木曽峠だったのだろう。
国道19号線から、ガソリンスタンドのある交差点を曲がって国道256号線に入る。標高は370mほど。曲がってすぐのところに、大平街道と刻まれた古そうな石柱が立っている。
だらだら上りの整備された2車線が続く。最も疲れるパターンである。やがて谷の向こうのでかい温泉の建物が目に入る。その建物の脇で右折して、国道256号線の旧道に入る。
旧道は蘭(あららぎ)の集落の中をじりじりと上っていく。渋い集落の中の1車線路である。木材加工工場がぽつぽつあり、民家の赤茶けた瓦が目立つ。それぞれの家の庭先で水が側溝に流れ落ち(おそらく洗い物用に水道が引いてある)、涼しげな風情だ。
標高880m付近で国道256号線とクロスし、いよいよ峠の本番である。道幅は1.5車線で、舗装状態は悪くない。木曽の美林ということか、鬱蒼とした薄暗い林の中を進む。人気はなく、交通量も多くはない。
カーブごとに第60号カーブなどの標識がある。確か最初は62くらいだったと思う。それから1ずつ減っていくという趣向である。
やがて林は幾分明るさを増してきた。午後の斜光線に透ける緑の木の葉が何ともいえず美しい。全然展望はないが、気分は盛り上がってくる。
標高1170m付近のヘアピンカーブには、案内板と水場があった。そしてそのそばには大木になったトチノキ。何というか、水の気配を感じる峠だなあと思う。
水場を過ぎて少し上ると、右カーブに木曽見茶屋がある。クラシカルというか素朴な建物だ。ベンチも置いてあり、さっき上ってきた蘭の集落も見える。木の廃材を燃やしているからか、もわもわと煙が立ち昇っている。
ここからは急な階段を上って展望台にも行ける。御獄や乗鞍岳や穂高連峰を眺め……というのが売りなのだが、実際にはこれらはあたまが小さく見える程度である。
ここの標高は1230mほど。ここまで来れば鞍部はもう少し。
白い息を吐きながら再びペダルを踏むと、やがて左側に小さな公園があり、その奥の薄暗い切り通しにトンネルがあった。公園には芝生や水場がある。
トンネルは、トンネルというよりは短いロックシェッドである。土被りはない。ポータルに木曽峠という文字を1字ずつ刻んだプレートが右から左に掲げられている。なおトンネルの手前には大平街道の石柱が再びある。
トンネルを抜けて下り始めると、大平峠 標高1358mの金属製の標識と、木曽峠 標高1358mの木の看板があった。後者には小さく大平峠と付記されている。まあ、正式名称としては大平峠の方に軍配が挙がるか。
鞍部から少し下ると、右側に大平峠県民の森キャンプ場があった。誰もおらず安眠間違いなし。しかも無料である。ありがたく野営をさせていただく。
翌朝は冷たい空気の中を大平の集落に向けて下った。朝日の射す明るい林。右側には沢があり瀬音を立てている。清涼そのものだ。
大平の集落まで下ると標高は1140mほどである。ここから飯田へは、飯田峠を越えて行くことになる。鳩打峠という玄人っぽいコースもあるがまあそれは措くとして。
2003年10月23日初版 / 2010年4月7日更新