三国峠

長野・埼玉県境の長いダートの峠

読み方みくにとうげ
標高1730m
位置埼玉県秩父市・長野県南佐久郡川上村
道路秩父市道17号線(埼玉県側)
水系荒川・信濃川

実走日2010年5月17日(月)
地図などGoogle Maps地図院地図
関連書籍信州百峠峠 秩父への道
同名峠三国峠(山梨県)

三国峠は、長野県と埼玉県の県境にある唯一の車道の峠である。その置かれた位置にも価値があるが、峠道自体についても埼玉県側は長いダートであり、これもまた価値のあるものだ。

しかし、自転車で行こうとするととても行きにくい峠でもある。埼玉県側から上ろうとするとかなり標高差があるし、長野県側から上るとえんえんダートを下る必要がある。そしていずれにしても埼玉県側の麓ではトンネル連発の道路を走破しなければならない。さらにいえば休日はかなり交通量が多いというではないか。……そういうわけで、ずっと敬遠してきたのであったが、行ってみて振り返るに、

ということは言ってしまってもいいだろうと思われる。

三国峠という名前は、武蔵と上野と信濃の3つの国が接する三国山に近いからついているのだろう。おれは長いこと勘違いしていたが、甲斐は入っていないのだ。

滝沢ダムの手前のループ

おれは埼玉県側から上った。アプローチが長くて1日では越えられないので、峠越えの前日に秩父から国道140号線で大滝へ行き、ループを上って滝沢ダムへ上り、トンネル連発の道をクリアして中津川まで走った。

この日は日曜日だったのだが、大滝よりも上は意外と交通量が少なかった。トンネルも意外と凶悪ではなかった(中津川の手前の仏石山トンネルと持桶トンネルは曲がった上り勾配のトンネルだったので凶悪と言えるが、旧道で回避できたのでいいや)。

ちなみに、滝沢ダム湖の南岸(国道140号線の対岸)を行く市道があるのだが、廃道というわけではないようだが工事中で通行止だった。ダム湖の上流側の中津峡沿いの旧道も同様だった。


林の中の単調な上り

さて峠越えの当日(月曜日)は中津川からの上りである。中津川の集落の標高は730mほどだから、ちょうど1000m程度の上りになる。

最初は1車線の舗装路が続くが、学習の森へ行く橋を分けた先から早くもダートである。トンネルをくぐって王冠(おうかんむり)のキャンプ場を過ぎる。やや砂利っぽいが極端にそうでもない。ところどころに丸太を2本並べて作った溝が埋まっている。

左側に中津川が沿って流れ下り、水音を立てている。沿道には白い花がぽつぽつ咲いているが名前はわからない。それとは別にウワミズザクラも少しある。ヒノキやスギの林はなく明るい感じだが、深い森のただ中であることもまた確かであり、これから上る尾根を見上げるとかそういうシーンはない。まあ、ある意味単調な道である。


谷を見ながら崖の上を進む

標高1050mあたりからは勾配はかなりきつくなってきた。砂利は特に深くはないはずだが、急坂を力をこめてペダルで上るときにはけっこう気になる。やがて道は折り返して中津川の谷を離れ、山腹に上りつく。

折り返したところから道の雰囲気は一変というところだろう。右手には谷が広がってくる。水音は遠ざかり、鳥の声が聞こえる。あちらこちらで落石を片付けた跡がある。ちゃんと整備されているのは確かなようだ。


両神山を見るカラマツ

この辺まで来ると上りは楽しくなってくる。谷の向こうの山腹にこれまで上ってきた道を眺め(あまり落差は感じない)、右手の意外と近くにギザギザ頭の両神山を見る。花はもうほとんどないが、ヤマザクラがほんの少しだけ残り、ムラサキヤシオがぽつぽつ花をつけている。カラマツもちらほら見かける。

交通量はとても多いということはない。しかし、15分おきくらいに四輪車やバイクが通るから、こういう道にしては多いほうだろう。


鞍部から埼玉側の眺望

長々とダートを上り抜き、とうとう鞍部に到着。三国峠 大滝村 標高1828mの木の標柱がある(標高は合っていない)。その標柱と、その背景の新緑の山並みを見ていると、一瞬だが達成感のあまり脚が震える。


鞍部から長野側の眺望

鞍部は深い切り通しになっている。その向こうには小さな駐車場と案内板がある。その向こうの風景は、なだらかな山並みと、それを覆うカラマツ林と、ぽっかりとそびえる残雪の八ヶ岳である。なるほど、かなり峠の東西で印象が異なる。しかし長野県側はもっと高原然としたものかと思っていたので意外だった。

なおここからは道路は舗装である。


桜とカラマツの下り

下り始めると左手前方にはこれから下る野菜畑が見える。逆光を受けて白く光っているのでビニルハウスか何かかと思ったのだが、あとで見るとそれは畑の土にビニルの幕をかぶせているものだった(マルチングと呼ばれるものだそうだ)。

あまり新しくはないアスファルトの路面が続く。新緑のカラマツ林の中の道だが、道沿いには桜が植えてありまだ花が残っている。素直に思う。何て美しい峠道なんだろうか、と。

岩井堂峠(とエドワード・ゴーリーの不幸な子供の背景)を思い出すような深いカラマツ林を抜け、畑の脇をかすめて集落の中を下る。正面にはほぼ常に八ヶ岳が見える。トラクターが走り回っており、ジュースの自販機の前には高い確率で軽トラやトラクターが停まっている。過疎による静謐とは無縁の村に見える。

ここからは大弛峠信州峠馬越峠などのいろいろな峠に転戦することが可能である。おれは信濃川上駅で輪行して帰った。この駅の標高は1135.3mである。

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2010年8月19日初版