一ノ鳥居峠

観光道路の陰の異相の峠

読み方いちのとりいとうげ
標高1150m
位置長野県長野市
道路長野県道506号線
水系信濃川

実走日2008年10月19日(日)
地図などGoogle Maps地図院地図
関連書籍信州百峠

この一ノ鳥居峠という名前についても、越水ヶ原峠と同様、おれは信州百峠以外では見かけたことがない。峠としては単なる飯縄山の小さな尾根を横切るものに過ぎず(鞍部でもない)、峠と呼んでいいものかどうかは少し疑問だ。なお道自体は有名で、つまりはかつての観光有料道路、戸隠バードラインである。

旧観光有料道路であること、この道よりも下にある県道76号線(大望峠参照)からの眺めがとてもよいことから考えて、素晴らしい眺望を持つ道路なのかと思っていたが、さにあらずで、展望ではなく高原の雰囲気が売りなのであった。

バードラインという名称は、空を飛んでいるような雄大な眺めを表しているとおれは思い込んでいたのだが、信州百峠にはその名のとおり野鳥が多いと書いてある。事前に読んでいけという話だが。

なお、一ノ鳥居というのは、長野方面から見て戸隠神社の最初の鳥居のことである(現在は鳥居は存在しない)。おれは今回は一ノ鳥居の付近だけはバードラインを離れて徒歩道を進んだので、バードラインを走破したわけではないことは明記しておきたい。

そば博物館の展望塔からの眺め

おれは越水ヶ原峠を越えてきて、宝光社からバードラインを目指して進み始めた。再びゆったりした上りである。少し行くとそば屋がぽつぽつとある一角がある。そのそばにそば博物館というのがあったので寄っていくことにする。目的は新そばの昼食。

食後は裏手にある展望塔に上った。西側の眺めがたいへんよい。戸隠連峰が主役であるが、左には北アルプスがシルエットで見える。ツノ2本の鹿島槍が雲の上に頭を出しているさまは、かつて松本に住んでいた身としては、ただ、懐かしい。

一応書いておくと、松本市の市街地そのものからは、鹿島槍は見えないと思う。


宝光社から一ノ鳥居への上り

上り始めていきなり昼食と展望ということで、峠越えとしては完全にぐだぐだである。気を取り直して先に進む。そこからもだらだら上りが続く。路傍には「二二丁」というような丁石が建っている。

信州百峠によると、この丁石は一ノ鳥居から戸隠神社中社まで建ててあり、全部で52丁あるという。

明るい林の中であり、眺望はまったくない。しかし雰囲気はなかなかいい。交通量が多いのは措くとして。

黄葉の始まったトチノキの林を抜けていく。おれはこの葉っぱの大きなトチノキという木がなぜかとても好きである。


大久保の茶屋から一ノ鳥居への徒歩道

やがて何軒か店が密集して出ている箇所にたどり着く。ここが大久保の茶屋で、標高は1090mほど。おれはあらかじめ地形図を読んで、ここからはバードラインではなく旧道で一ノ鳥居を目指すことにしていた。しかしそれらしい車道は見つからず、見つかったのは掘割の中を進む徒歩道だけだった。これが地形図に立派な2本線で出ている道とは信じられないけれども、とにかく踏み込むことにした。

ペダルで上ることのできる箇所もあるが、押さなければならない箇所のほうが多い。最初は話が違うじゃないかという気分だったが、だんだんと楽しくなってきた。さっきまでのバードラインの喧騒を離れ、静かな道を落ち葉を踏んで走る。つかの間の別世界の道である。


一の鳥居園地

15分ほど行くと鞍部が近づいてきた。青崩峠でも感じたことだが、徒歩道で鞍部に近づいたときのこの気分は何なのだろうか。ひどく胸に迫る何かがあるのだが、何に似ているかさえ語るのは難しい。

鞍部には想像していた鳥居はなく、その残骸があるのみだった。案内板があり、かつては石造の鳥居があったが地震で倒壊し、その後木造の鳥居を建てたが老朽化により1985年に撤去したとある。残骸は石造時代の部材だ。

鞍部は広々としていて、特に左側には美しい芝生が広がっている。一の鳥居園地である。ほとんど人はいない。その向こうには飯縄山が間近に見えている。閑雅そのものであり、素晴らしい園地であるが、ここまで来るとバードラインが近いらしく、自動車の音がやかましいのが残念である。

園地を出ると徒歩道は下りである。少し行くとバードラインに合流する。そこからも基本的に下りだ。さっきまでと同様に明るい林が続く。舗装の割れ目の補修材が滑りやすそうで気を使う。


脇道と長野盆地を見下ろす

やがて目の前が開け、ガソリンスタンドやヤマザキショップがある一角に到着。標高は1050mほど。右に大座法師池がある。突き当たりであり、標識が出ていて長野市街は左折(浅川ループラインという、ループ連発の豪快な道)である。バードラインは右折である。ループに興味はないから右を選ぶ。意外にも自動車は半々くらいの割合で分かれていく。

そこからは豪快な下りである。相変わらず滑りやすそうな補修がされている。左に脇道が寄り添っている。さっきの突き当たりでは、よく見ると直進もできたのだが、どうやらその道らしい。

ヘアピンをクリアして下ると長野盆地の展望が開けてくる。リンゴの果樹園の中を下る脇道も見える。その脇道の方が楽しそうに思えるのは隣の芝生だろうか。


南浅川の谷へと下る途中

50km/h以上を連発して下ってやがて分岐に到着。この先は大峰城で通行止で長野市街は右折、という標識が出ている。1985年の地附山の地すべりでバードラインが崩壊して再起不能になっているということは知っているが、北と南のどちらにエスケープするかは決めていなかった。自動車がすべて標識通りに右折していくのを見て、おれは逆ということで左(北)に下ることにした。ここの標高は740mほど。

1車線で静かな集落の脇を下っていく。リンゴがたくさん実っておりいい眺めである。通行は絶無。コンクリート舗装も交えやがて谷川にたどり着く。ここまで来るともう陽は当たらない。谷川まで来るとそれなりの高速で下ることができる。しばらく行くと左手の眺めが開け、浅川ループラインのループ橋が見える。やがて市街地に入ってくる。県道37号線にぶつかると標高は410mあまりである。

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2008年12月8日初版 / 2015年1月8日更新