矢岳越え
のどかなうえに素晴らしい眺望を持つ峠道
読み方 | やたけごえ | |
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標高 | 700m | |
位置 | 宮崎県えびの市・熊本県人吉市 | |
道路 | 宮崎県道408号線(宮崎県側の途中まで) | |
水系 | 川内川・球磨川 | |
実走日 | 1996年3月21日(木) | |
地図など | Google Maps・地図院地図 | |
関連書籍 | 九州の峠 |
矢岳越えは、大淀川流域の加久藤盆地と球磨川流域の人吉盆地を隔てる尾根にある峠道である。この矢岳越えという呼び名はあまり一般的ではないかもしれないが、地図にも名前は出ていないので、並走する肥薩線(鉄道)の方の呼び名を流用させていただく。
鉄道趣味の世界では普通やたけごえと読むと思うが、書籍九州の峠では、やたけごしとルビが振られている。
加久藤盆地と人吉盆地の間には国道221号線も通っており、そちらの方が道路としてはずっとメジャーである。名物のループもあるし。しかし、探訪派であり、特段スピード狂でもなく、かつ鉄道が好きな、(多数派ではないにしろイカ物食いというわけでもない)普通の自転車乗りの一定の割合の人々には、この峠道の方がはるかにいい選択肢だろうと信じる。
この日はえびの市郊外の橋の下で朝を迎えた。国道221号線の京町温泉駅(標高220.9m)の前の交差点で→矢岳高原の標識を見て曲がる。1〜1.5車線程度の狭い道が続く。途中、吉田温泉というひなびた温泉がある。
あたりはのどかな農村。右手の国道221号線のループはもとより、目の前の山腹に鉄道(肥薩線)の大築堤も見える。ときどき眼下に川内川の盆地も眺められる。
やがて水田は尽きて茶畑になる。
2010年3月に再訪したときには、一部の区間は改良されて2車線になっていた。が、それも矢岳高原までだった。また、上る途中の道からの眺めもとてもよく、霧島連山だけでなく桜島までも見ることができた。その当時の写真は2017年2月23日の表紙写真として別に掲載してあるが、その写真の右端にうっすら見えている山影が桜島である。
さらに上ると人家も絶え、山間のワインディングになる。左手にぎん水という清水もある。看板によればここから矢岳高原まで2.6km。
しばし上ると矢岳高原。広い芝生があり、ここからの眺めは非常によい。左手の国道221号線のループから始まり、右手の川内川が流れていく彼方まで盆地が見え、その奥には霧島山がどんと座している。
なお、この芝生、キャンプ場らしいのだが、この季節(春)にはキャンパーはいなかった。あたりに人気がないので、ここでひとりでキャンプをするのは淋しいと思う。
ここまで来ればサミットはもう少し。牧場と茶畑の中の軽いアップダウンのあと県境を越え、林の中の急な下りで矢岳駅やその脇のSL展示館を右下に見る。やがて踏切を渡って矢岳駅に到着する。
矢岳駅は肥薩線の最高所である(536.9m)。静かな山里の中の静かな小駅、という感じのたたずまい。どこか、時代の流れを超越しているような。
いちばん驚いたのは、ホームの集札箱にお客様にお願いします。今年も小鳥(しじゅうから)が集札箱に巣づくりをはじめる季節になりました。きっぷは横の箱に入れてください。人吉鉄道事業部なる貼紙があったこと。
2010年3月の再訪時にはこの貼紙はなかったが、駅のたたずまいはほとんど同じだった。駅寝の話はマイルームの矢岳駅にある。
矢岳駅を出発する。山村だが道沿いに水田がある。それが尽きると道は再び山間のワインディングとなる。しかし下りっぱなしではなくアップダウンだ。相変わらず道は狭く、通行もほとんどない。
やがて道は急に下り出す。おれは道なりに行かず、右折して大畑(おこば)駅を目指す。矢岳よりもかなり開けており、右側の斜面は畑である。その向こうに人吉盆地が見える。
大畑駅はループとスイッチバックの組み合わさった、鉄道の名所である。標高は294.1m。ここから人吉盆地へはどのように下っても着くだろうが、逆に上るのは道がわかりにくいので、大縮尺の地図が必携だ。
人吉盆地の中の人吉駅の標高は106.7mである。
2002年1月7日初版 / 2017年2月23日更新