温迫峠
長いダートと展望のある林道の峠
読み方 | ぬくみさことうげ | |
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標高 | 920m | |
位置 | 宮崎県えびの市・熊本県球磨郡あさぎり町 | |
道路 | 林道大川筋線(宮崎県側)・林道榎田大川筋線(熊本県側) | |
水系 | 川内川・球磨川 | |
実走日 | 2010年3月26日(金) | |
地図など | Google Maps・地図院地図 | |
関連書籍 | 九州の峠 |
温迫峠は、宮崎県の加久藤盆地と熊本県の人吉盆地をつなぐ峠のうち、最も東にある峠である。両盆地の間には国道221号線の加久藤越え、素朴な山道の矢岳越え、さらに九州道や鉄道の肥薩線も通っており、盆地間連絡の道としてはこの温迫峠の影は非常に薄いと思われる。
しかし、深い森、美しい狗留孫峡、それに沿う長いダート、そして人吉盆地側の素晴らしい展望がこの峠にはある。
個人的な話だが、この峠を目指した時点で、これを越えずに自転車乗り人生は終わられまいと思っていたのは、この温迫峠だけだった。
おれはえびの市の加久藤から国道221号線を東に進み、この峠を目指した。温迫峠へは左折して県道404号線に入らなければならないが、その入口には特に標識の類がなく、わかりにくい。標高は270mあまり。
県道404号線に入るとあたりには田んぼが広がる。正面にほこりをかぶったように雪化粧した白髪岳がちらと見える。振り返れば同じように雪化粧した韓国岳(霧島連山)が見える。
川内川を渡り、集落の中を行くと、↑秘境クルソン峡というような立て看があり、道が合っているとわかる。その後も何箇所かで案内板を見かける。
じきに集落は終わり、いきなりダートの林道が始まる。頭上に恐ろしく高いコンクリートの橋が架かっている。高速道路のようだが、実はふるさと農道の狗留孫大橋なる橋である。名前に狗留孫がつくからと間違えて橋に行ってしまわないように気をつけよう。
さて最初から左に澄んだ川内川の渓流を見つつ進む。なかなか路面には陽が当たらない。林業地帯っぽく、スギやヒノキが多いが、それ以外には常緑広葉樹が多い。ヤブツバキの赤い花がぽつぽつある。ヤマザクラもあるようで遠くの山腹に見えたりするが、道沿いにはあまりない。ミツマタの白い花が路傍にあり、西国だなあと思う。
道沿いには山神社という小さな祠がときどきある。通行はほとんどない。路面は砂利が深いわけでもなくダートにしては走りやすい方だ。
狗留孫峡では灰色の岩が部分的に柱状節理しているところもあり、そこを青く澄んだ水が流れている。しばらく進むと左側の川沿いにキャンプ場がある。四国の深山のキャンプ場(獅子越峠参照)に雰囲気が似ている。ここにも山神社がある。
あたりは深い山の中であり、平地はほとんどないのだが、書籍九州の峠によると、かつてはこの付近には小中学校の分校があったというのだから驚く。
さらにしばらく(看板を信じるならば3km)行くと狗留孫神社への道を分け、道は折り返して斜面を上り始める。勾配がきつくなり、路面には尖った石が突然増えて走りにくくなったが、やがてそれは元に戻る。道沿いにはもう山神社はない。
陀来水谷という谷をつめていくところでは、道端のスギやヒノキが減り、照葉樹林の雰囲気が濃くなる。しかし元の谷に戻るとまたスギやヒノキが多くなる。多いわけではないが、シキミのクリーム色の花が咲いているのも見る。
ある意味単調な上りには違いない。眺望はまったくない。左側に谷川があることもずっと変わらない。鞍部のすぐ下でさえ、麓と同じように道のすぐ脇で水音がしているのは珍しいかもしれない。
鞍部の直前からは路面はぴかぴかの舗装になる。鞍部にたどり着くと正面の木と木の間に人吉盆地とその向こうの山々の眺めが見える。道案内の看板はあるが、峠の標柱の類のものはない。これだけの峠にもかかわらず、何だか、地元からは峠としてはまったく顧みられていないように見える。
ちなみに、県境は峠ではなく、もっと南にある。先ほど触れた小中学校の分校も、当時の熊本県球磨郡上村立の学校である。
下りは1.5車線くらいの新しい舗装路が続く。ところどころでとても眺めのいいポイントがある。これから下る道が見えたりもする。非常に非対称な峠道だが、この点も獅子越峠に似ている。
キャンプ場のあるビハ公園への道を右に分け、下り続ける。こちらには千望展望所とかいう展望スポットがあったはずだが……と思いつつ下ったが、どうやらそれは過ぎてしまったらしいと気づく。納得が行かないが、盆地側から上ってこないとわかりにくい入口だったのかもしれない。
やがて茶畑のある扇状地上の集落に進入し、すぐに県道43号線にぶつかって峠道は終わる。標高は210m。
2010年4月22日初版