ぼんさん越

五家荘と椎葉を結ぶ山深い峠

読み方ぼんさんごし
標高1480m
位置熊本県八代市・宮崎県東臼杵郡椎葉村
道路村道椎葉五家荘線(椎葉側)
水系球磨川・耳川

実走日2012年3月27日(火)
地図などGoogle Maps地図院地図
関連書籍九州の峠

ぼんさん越は、菅原道真の子孫が暮らすという五家荘の樅木(もみぎ)と、平家の子孫が暮らすという椎葉の間を結ぶ峠である。非常に深くて明るい山を越えていく道の雰囲気は、隣の椎矢峠と似ているが、こちらは舗装されている。

書籍九州の峠によれば、車道の開通は1987年5月9日であるが、もちろんその前から両集落を結ぶ峠道はあった。同書には、寺のない樅木の人々が頼りにしている寺が椎葉の日添(ひぞえ)にあり、必要に応じてお坊さんを呼びに行ったものだ、という由来が書いてある。それでぼんさん越なのだろう。

実際のところ、現地の標識や看板で目にした呼び方は、五家荘側では椎葉越(しいばごえ)、椎葉側では県境峠だったのだが、九州の峠五家荘の側にも椎葉村の側にも通用する呼び名として挙げているぼんさん越をここでは用いることにした。

2012年版のツーリングマップル九州昭文社)には、近くの山犬切峠(1510m)が九州で標高が最も高いと書いてあるけれども、これは反対側に下りられない峠なので、普通に通り抜けられる車道の峠としては、おそらくこのぼんさん越が九州で最も標高が高いだろうと思われる。

なお、樅木の集落はかなり小さいので、買物は別のところで済ませておくと安心だと思う。

樅木吊橋付近から椎葉方面を眺める

おれは五家荘側からこの峠を越えることにした。前日に二本杉峠を越え、途中で国道445号線をそれて峠の麓へやってきたわけだ。

この写真はその途中の樅木吊橋付近で東側の尾根を撮ったものだ。明日はこの尾根を越えていくことになる。けっこうな山深さだが、二本杉峠のようなアホな峠を越えてきた身には、まあそんなもんかねという眺めだった。ちなみに手前に咲いている花は桜ではなく梅である。

この晩は五家荘渓流キャンプ場に泊まった。にがこべ谷川が西の内谷川に合流する地点の直下にある。標高は740mほど。


件の民家を見下ろしつつ上る

翌日は朝から峠上りだ。キャンプ場から少し上ると左に折り返す向きに峠道が分かれていた。鶴富屋敷44km 椎葉越11kmという道標が出ている。峠から上椎葉までは33kmもあるということになる。峠からの落差が相当あるのは知っているが、それほどまでに距離があるとは。

道は新しい舗装の1.5車線だ。路肩には水の通るホースが並ぶ。大規模な山腹工事の現場の脇を通る。やや殺風景である。

少し行くとにがこべ谷川の対岸に家が1軒あり、軒先に軽トラが1台停まっているのが見えてくるが、どう見てもそちらに渡る車道の橋はない。周囲の状況から考えるに、軽トラは家のやや下流にある砂防ダムの上流側の浅瀬をざんぶと横切って出入りしていると思われた。ワイルドな生活だ。

標高870m付近で右に折り返して山腹に上りつき、にがこべ谷川の水音は遠ざかる。水のホースもここまで。スギ林などが多いが北西方面へのあまり遠くない山の眺めもちらちらある。またさっきにがこべ谷川に添って上ってきた道も見下ろす。


斜光線の中の枯木

標高940m付近で左にまた折り返して進む。勾配はあまりきつくない。静かな春の山だ。朝の斜光線の中、谷の向こうの枯木やスギのとんがり頭などの眺めがあまりに美しく、ペダルを踏みつつぼんやりと見とれる。

標高のせいか二本杉峠でよく見たヤブツバキはあまり見ない。やたらにアセビの多い一角はあった。あとこの峠では全体的にヤドリギをとてもたくさん見かけた。


折り返す道を見上げる

しばらく上ると谷の向こうに標高1350m付近の折り返しの前後の道のガードレールが見えてきた。昨日の二本杉峠と異なり、そうやってポイントポイントが見えるだけで、全体としては下からは道筋は判然としにくい。見えない区間は林の中になっているわけだ。

この写真の範囲では、左のコンクリートの被覆の手前を左に進んでから写真の自転車の位置まで来て、そこから先は右奥へ進んで折り返し、左上の方まで行って標高1350m付近でまた折り返して今度は右へ進む、という道筋になっている。

やがて標高1220m付近でにがこべ谷川を横切って折り返していく。この付近では路上に獣の白骨死体があってぎょっとする。脊椎と頭骨しか残っていないが、体長は1m弱くらいか。シカかな、と考えつつ通り過ぎる。


これまで上ってきた道を見下ろす鞍部近くでの眺め

ここからはこれまで上ってきた道の眺めがいい箇所が増えてくる。また路面の一部が凍っている箇所があるほか、路傍では霜柱は随所で見るし、沢の周辺では岩や木の枝から氷柱が下がっているのを頻繁に見かける。

先ほど見上げた標高1350m付近の折り返しをクリアすると最後の上りだ。路傍には木が多く、意外と眺めはない。キツツキの類が木を叩いているらしき音が聞こえる。鞍部の直前にはまるで展望所のように右側の路肩が広くなっているところがあり、ここが最後の展望ポイントとなる。


鞍部

鞍部は狭い感じだ。駐車場に10台ほど自動車が停まっていて意外だが、人影はない。登山者の車なのだろう。

他には八代市と椎葉村の境界の標識や、椎葉から上ってきた向きに対する村道椎葉五家荘線 終点の標識、秘境ルート開通の碑という石碑などがある。

さて下るとする。するとまもなく、茶色い動物がこちらに驚いて右側の側溝から出ようとしてもがいているのを見る。タヌキか? いやそれにしてはでかい。……イノシシだ! 突撃されなくてよかった、と思いつつ通り過ぎる。思い返すとさっきの白骨死体もイノシシだった可能性がある。


五家荘側の狭い下り

下り始めて最初のうちは林の中の区間が多く、薄暗いわけでもないのだが眺めもない。しかししばらく行くと随所で眺めが出てくる。山また山。皆伐跡地。そしてすごい山の上にある集落。

ただしどこか風景は薄ら寒い。陽射しが弱まっているのだろうか。雲がかかっているわけでもないのだが。


日添

しばらく行くと九州の峠に出ていた民宿焼畑を過ぎる。そしてそのすぐあとには称専坊寺がある。これもまた九州の峠に出ていた、樅木の人々とつながりのあった寺だ。そしてその付近には県境峠 10kmという標識がある。まさかこれが峠名というわけではないだろう。

椎葉村には、県境の峠にはこのぼんさん越のほかに椎矢峠・不土野峠・湯山峠・国見峠などがある。

そこからは眼下に谷川を見下ろす。普通に水は流れているが水無川という名前である。やがてその水面に近いところまで下り、折り返して川沿いに下る。川沿いになっても勾配は特に緩まることはなく、かなりの速度が出る。谷川の水は澄んでいてきれいである。

途中、対岸に滝があり、白水の滝という看板が出ている。層雲峡の銀河・流星の滝を小さくしたような感じで、いかにも山中らしい景観であるが、思い返すとその直前には対岸の斜面の上に集落があったのだ。


よどんできた耳川

やがて耳川沿いの道に突き当たって右折する。その交差点には犬が放し飼いになっており追いかけられる。下りだったから全力で走ってまく。

なお、この交差点を左折すると椎矢峠へ向かう道である。

少し行くと耳川の流れはよどんできた。これはダム湖の始まりだな、と思う。水の色はとても美しい青緑である。雨川ダム湖(田口峠参照)とどちらが美しいだろうか、と考える。

やがて不土野峠からの道に合流し、ひえつきの里キャンプ場への道を分けて、ダム湖の左岸を行く。1.5車線の屈曲の激しい長い道が続く。16年前に椎矢峠を越えた日は朝からこれをえんえん走ったのか。

ごく軽いアップダウンが続く。最後はぐっと上って女神像公園に到着。ここの標高は500mくらいだが、ここを過ぎると一気に下り、上椎葉の集落の入口まで来ると標高は400mほどとなる。

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2012年8月16日初版 / 2015年1月8日更新