鴻坂峠
どこか南国風の里山の峠
読み方 | こうさかとうげ | |
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標高 | 260m | |
位置 | 三重県度会郡度会町・南伊勢町 | |
道路 | 三重県道721号線 | |
水系 | 宮川・伊勢路川 | |
実走日 | 2016年4月30日(土) | |
地図など | Google Maps・地図院地図 |
鴻坂峠は、伊勢湾に注ぐ宮川と熊野灘沿いの海岸線の間に東西に伸びる尾根にある峠で、剣峠・鍛冶屋峠・能見坂・藤坂峠・棚橋峠などと同じ並びにある峠であると言える。しかしその中では群を抜いて使われていない峠なのではないだろうか。
峠道は、県道ではあるけれども1車線しかなくてとても未整備である。展望はいいとは言えないが隣の藤越よりはある。
おれは藤越から転戦してこの峠を西側から越えた。藤越から下りてきて、南北に走る県道22号線にぶつかり、左折してすぐ右折し、鴻坂峠の県道721号線に入る。
最初は広い道だが、一之瀬川を渡って和井野の集落が終わるとこの先(鴻坂峠)道路幅員狭小のため 大型車通行不能の標識があり、道は狭くなる。この地点の標高は80mほど。
そこからはスギやヒノキの薄暗い林の中のほぼ完全1車線の道であり、ガードレールもほとんどない。路面中央にはそのスギやヒノキの茶色い枯れ枝が集まっている。路面が濡れている箇所もある。
しかし沢沿いの区間は短く、山腹を行くようになるとだんだん左手の視界が明るくなってくる。ところどころでさっき横切った一之瀬川の谷間の風景を見ることができる。
植生はさっきの藤越に似ているが、スミレは見かけないようだ。マムシグサはけっこう多い。あと前に行った剣峠や南海展望台(2014年11月27日の表紙写真参照)あたりに似てシダが増えてきた。
明るかったり暗かったりする林の中を行きつつ、やがて左カーブの浅い切り通しの薄暗い鞍部に到着。町界にあたるはずだが、標識の類はない。
しかしこの鞍部には開鑿記念と書かれたクラシカルな石碑がある。本林道ハ一之瀬穂原両村ヲ……という書き出しなので、この峠道は最初は林道だったのだとわかる。また、最後まで読むとこの峠道の開通が1934年であることもわかる。
鞍部には、それ以外には地蔵尊のようなものがある。また道端にはヤマエンゴサクの花が見られた。
さて下り始める。上りと同様の林の中の道である。ときどき妙に青臭い匂いがするのだが、どうもそれは新緑の山にもこもこと咲いているクリーム色の花のせいらしい。クリとかツブラジイとかそういう類だろう。クリには早いか。路面は相変わらず枯れ枝や落石が多い。
と、石か何かを踏んだ直後に自転車の後部からしゅーっという場違いな音が聞こえてきた。パンクだ。皆まで申すな、という感じだが、すっかり空気が抜けてしまうまでその間の抜けた音はし続けた。しかしいつ以来だろうか。
チューブを交換して再出発。パンクした直後の目には、確かにこんながたがた道はいつパンクしてもおかしくなさそうに見えるし、いや実際よくやってるよお前は、と声をかけてやりたくもなる。タイヤに。
標高の割には下りは長い。やがて谷川沿いの道になる。また谷間が開け、水田が広がる。例のクリーム色の花をいっぱい咲かせた山がその水面に映っている。
やがて海沿いの道である国道260号線に行き当たり、鴻坂峠の峠道は終わりとなる。この地点は少し内陸なので海は見えない。この峠道ではただ一人として他の通行者に会うことはなかった。
2016年12月22日初版