鍛冶屋峠

懐かしさと明るさと気持ち悪さのある静かな峠

読み方かじやとうげ
標高280m
位置三重県度会郡南伊勢町・伊勢市
道路三重県道169号線
水系伊勢路川・宮川

実走日2016年5月1日(日)
地図などGoogle Maps地図院地図

鍛冶屋峠は剣峠と同様に伊勢市と旧南勢町(現在の南伊勢町の東半分)の境界上にある峠である。こちらは剣峠よりは整備されていて、長いトンネルも開通しているが、旧道も残っている。おれが走ったのは旧道だ。

旧道や、その伊勢市側の麓の横輪町あたりの雰囲気を合わせると、どこか懐かしい里山の峠のように思われるが、しかし人気のなさと南国風の植生に基づく薄気味悪さもある。時間と体力に余裕がある自転車野郎が県道169号線を走るのであれば、検討してみるといいだろう。

現地(鞍部)で見た看板の中の表記は鍛冶屋峠だったのだが、地理院地図だと鍛治屋峠になっている(2文字目が違う)。現地優先ということでここでは前者をとっておいた。この峠名は近くの集落名などから来ているというわけではないようで、どちらがより適切なのかはわからない。

県道719号線を上る

おれはこの峠を海側(南側)から越えた。路線上は、この峠は県道168号線(サニーロードという通称らしい)という、五ヶ所(旧南勢町の中心部)から伸びている道路に属しているが、おれはそんなに東から上り始める理由がなかったし、そもそも五ヶ所からだと途中で水系を取り替えるので純粋な峠道ではないし、ということで、前日に鴻坂峠を越えて下りてきた伊勢路(集落名)から峠上りをスタートした。

道路は県道719号線で、番号の標識(いわゆるヘキサ)の補助標識は伊勢路伊勢線 南伊勢町 伊勢路という具合。沿っていく川は伊勢路川。

ちなみに、藤坂峠の南側の川も、字は違うけれど伊勢地川という名前だ。このあたりはかつては伊勢国ではなくて志摩国だったそうなので、別に変な地名ではない、ということになると思う。

正面は鴻坂峠の山体と同じようにクリーム色の花でいっぱい。2車線のまずまず整備された道を行く。勾配は緩い。その途中で大規模な鶏舎か何かの脇を通り、おそらくそのせいだろうが猛烈ににおう。

まだ上りは本格的ではないが、背中をあぶられているような感じであることもあり、けっこう暑い。


明るい山腹を行く

しばらく行くと左に伊勢の聖水 珈琲・紅茶に最適 美味という看板が出ていた。自転車を停めて覗きこんでみたが、特に噴き出し口のようなものはなくて、沢があるだけだった。

それを過ぎると県道169号線に突き当たる。信号機があるが、久しぶりに見たような気もする(昨日は滝原から七保峠藤越鴻坂峠と走ってきたから……)。左折して進む。

やや見通しのよい2車線のきれいな道で、昨日の七保峠を思い出す。交通量はやや多めである。少し行くと正面上方の斜面に白いガードレールが光っているのが見えてくる。はあ……たいした標高じゃないはずだが、けっこう上るね。

ここの写真で言うと、169という番号の標識の右手に白いガードレールが写っている。


旧道の上り

橋を渡ってその斜面の裾に取りつき、じりじりと上っていくと、やがて右に折り返すように旧道が分かれていた。標高は140mほど。不法投棄が多いのだろう、通報しろだの監視中だのという看板が建っている。

ここからは1.5車線の峠道だ。最初は今まで上ってきた方面への少々開けた眺めがあるが、基本的には特に眺めはない。スギやヒノキが多く、薄暗いところもある。路面はそれらの赤茶けた枯れ枝でいっぱいだ。陽当たりのいいところにツツジがあるくらいで花はほとんど見かけない。斜面はかなり湿っぽいところが多く、一面から水が滴っているようなところもある。路面が濡れているところも多い。


さっき下から見上げたガードレールの地点

しばらく行くとさっき下から見上げたガードレールの地点にさしかかる。ここだけは眺めがややよい。曲がった谷の底を進む道筋が見えている。


鞍部

それ以降も特に展望が開けたりすることもなく鞍部に到着。鞍部は文字通りの鞍部で、切り通しではない。左に登山道が分かれており、その案内板も建っている。特に標識や石碑の類はないが、頭の欠けた地蔵尊のようなものはある。

登山道の案内板によると、ここから下る道は横輪鍛冶屋線ということだが、市道なのか林道なのかはわからない。あとこの案内板で面白いのは狩猟の鉄砲に注意してくださいという文言。どうしろって言うんだよ!


シダがびっしりと生えた斜面の脇を行く

さて下り始める。上りと同じような、針葉樹林の中の道が続く。眺望はやはりない。

昨日の鴻坂峠と同じように、新芽がY字型に分かれたシダが斜面をびっしりと埋めているところがあり、その風景は少々不気味に感じられる。なぜこのような規則正しさが不気味さにつながるんだろう、とどうでもいいことを考えながら通過する。


宮山から見る横輪町の眺め

やがて目の前が開けて横輪町の集落に到着する。山間の集落だが、左側に宮山という小山があり、山頂まで遊歩道がついている。桜の名所ということだが、もちろんもう桜はない。でもツツジがきれいである。

散歩するか。そう思ってその遊歩道を歩き出すのだが、最初に金網のドアがある。動物よけか。念の入ったことにこのドアにはばねが入っており、手を放すと閉まるようになっている。

新緑と、鏡のような田んぼと、黒灰色の瓦屋根と、石垣の風景を眺めて、ぐるりと歩いて自転車に戻る。さて続きを走ろう。

横輪町からは県道720号線を西進し、横輪口の交差点で県道169号線に戻る。標高は70mあまり。あとは平野に出るまで整備された道を北上していくだけである。途中からは道は坂の洗濯岩状態となり、逆風とあいまってけっこうつらい。

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2017年1月12日初版