石榑峠
コンクリートブロックが名物の旧国道峠
読み方 | いしぐれとうげ | |
---|---|---|
標高 | 680m | |
位置 | 滋賀県東近江市・三重県いなべ市 | |
水系 | 淀川・員弁川 | |
実走日 | 2013年10月14日(月) | |
地図など | Google Maps・地図院地図 |
1995年だったと思うが、北海道に住んでいた頃、仲間が、自転車日本縦断の体験談の中で、何か頂上に変なコンクリートブロックある峠あったんだよねということを話していた。それがこの石榑峠だった。
ずっとあとになり、この峠はいわゆる酷道として有名だということと、このコンクリートブロックが名物であることを知った。北海道民だった彼がそれを知っていたとは思えないので、彼がどうしてこの峠を越えたのかは謎なのだが、おそらくは京都から名古屋への最短経路(のように見えた)というあたりが理由だったのだろうか。
それからずっと行きたいと思っていたが、2011年3月26日に4157mもの長さのある石榑トンネルを擁する新道が開通してしまい、この峠道は旧道に転落、しかも通行止とかいう話もあったので、もう永遠に会うことがないのかそのコンクリートブロックには、とほぞを噛んでいたが、結局何やかやで今回通行止承知で様子を見に行くことにした。
……峠の情報をあまり書いていない。石榑峠は滋賀県の琵琶湖南岸から三重県北端部に抜ける国道421号線の旧道の峠である。横切る尾根線は鈴鹿山脈と呼ばれる。行った結果を書けば、やはり通行止だったのだが、自転車で通過することは物理的には全然難しくなかった。あと、積極的に廃道化されることはなさそうに思えた。鞍部が登山者の基地として使われていそうだったからだ。
さておれは滋賀県側の永源寺から上り始めた。国道421号線はさてもさても立派な道である。広い2車線でカーブもゆったりとしている。そして大規模な橋が架かっている。交通量は朝だからかもしれないが多くない。
少し行くと右側に旧道が残っており、「名水 京の水」の看板が出ていた。寄っていくことにする。塩ビのパイプから水が噴き出していて路面まで濡らしている。
その後も立派な道が続き、登坂車線も始まる。6%の勾配標識がある。どことなく栃ノ木峠の今庄側の麓の雰囲気に似ていると思う。
石榑トンネルの入口に到着。標高は480mあまり。左と右の両方に道が分かれているがおれが目指す石榑峠の旧道は左だ。三重側から来た賃走中のタクシーが目の前でその石榑峠の旧道に入っていき、度肝を抜かれる。とんだ峠好きもいたものだ。まあ東京から来て自転車で越えるやつも似たようなものか。
さておれも行くことにする。きれいなヒノキの林の中のやや急な上りである。道幅は1.5車線くらいか。ほんの少し行くとこの先三重県側に通り抜けできません通行止の看板が出ており、バリケードで道幅が半分ほどふさがれている。ふむ、この様子だと、県境までは規制対象外ということかな。
その付近には県境まで5.3kmという小さな標識もあった。この標識はこのあとも100mおきに建っていた。
しばらくじりじりと上る。道端にはウツギが多いがタニウツギもあるように思う。日本海側ではないのだが。あとぽつぽつとホオノキがある。なお最初のうちにはコアジサイの群落もあった。
山ひだ沿いに小さなカーブを繰り返していくとやがて道は下りに転じた。八風谷から古語録谷(こごろくだに。何という地名だ)の川筋に移ったということだ。背後にこれまで上ってきた方面の谷が開けてくる。
背後の空はよく晴れているのに、行く手に見える竜ヶ岳の頭は雲に隠れている。竜ヶ岳の右にちらと落ち窪んだ鞍部が見える地点もある。あれは石榑峠だろう。それほどの距離は感じない。
路面の舗装はあまり古くないし、崩れた法面の下には土嚢が置いてあったり、路面を掃いてきれいにした跡もあったりもするので、何やかやで旧道にしては手が入っているように思える。なお自動車はごくまれに通過する。さっきのタクシーも戻ってきて下りていった。
砂防ダムが直下にある谷をまたぐというのを2度ほど繰り返すとじきに鞍部だ。
開けてはいるがあまり広々した感じのない鞍部には駐車場があって自動車が何台か停めてあり、その奥には例のコンクリートブロックがある。その間にはチェーンが渡してあり、通行止であることを示している。
なお自転車はブロックの間のチェーンを越えるのではなく、ブロックの裏側の隙間からクリアした。ちなみにこの鞍部からは南側に尾根伝いに舗装路が分岐しているが頑丈なフェンスがあって入ることはできない。
写真を撮っていると、三重側から単独行のロードレーサーが上ってきた。実は既にあまり心配はしていないが、三重側はレーサーでも走破可能な路面ということだ。
予想外だったのは、鞍部から三重県側の眺めがいいことだった。ねずみ色の平野が広がり、その向こうに鈍い銀色の海面が広がっている。そこにはいくつもの貨物船が灰色の影として浮かび上がって見える。平野では四日市ドームの屋根が白く光っているのも見える。
さて下り始める。コンクリート舗装でかなり勾配は急だ。下る先に平野が見える箇所もあるが、道はおおむね林の中だ。細かいヘアピンを連発して下り、頭上と眼下に下りてきた道とこれから下る道を見るところもある。もっともあまり大スケールな感じではない。
随所で崩壊した路肩を見かけ、路上には落ち葉や砂が散らばっているけれども、自転車で走るぶんにはさしたる不都合はない。おそらく大部分の四輪車にとってもそうだろう。
しばらく下るとまたコンクリートブロックが置いてあった。鞍部からここまでが隘路区間だったということだ。ちょっと拍子抜けではある。
ここからは道はアスファルト舗装になり走りやすくなる。道幅も狭い2車線ほどとなるが、センターラインが引いてある広い2車線のところもある。
法面のコンクリートには素朴な動物の絵がペンキで描かれている箇所がいくつかあるが、そういう道がはや旧道と化してしまったことには少し物悲しいものがある。
やがて国道421号線の騒音が近づいてくると、オレンジと白の立派なゲートが道をふさいでいた。鞍部からここまでが通行止ということだ。自転車を持ち上げて脇のガードレールの上を越えてクリアする。
ここでも写真を撮っているとふたり連れのレーサーが同じ向きにやってきて下りていった。意外とこの峠はメジャーな峠なのかもしれない。
さて国道421号線に合流する。こちら側の合流点もトンネルの入口のすぐそばだが標高は370mあまりしかなく、滋賀側の入口よりも100m以上低い。
2車線の道を一気に下る。8%の勾配標識がある。走りやすく、自転車は普通に50km/h以上出るだろう。国道306号線との合流点まで下りると標高は110mあまり。
2013年11月21日初版