安楽越

静かな渓谷と山村の峠

標高490m
位置三重県亀山市・滋賀県甲賀市
水系鈴鹿川・淀川

実走日2015年4月25日(土)
地図などGoogle Maps地図院地図

亀山から甲賀に抜ける峠といえば、メインルートは国道1号線の鈴鹿峠だろう。東海道もそちらを通っている。

その数km北東側の鞍部を越えるのがこの安楽越である。率直なところ、ローカルルート以外の何ものでもない。人の流れも物流も、東海道の歴史を求めて歩く人々も、すべて隣の鈴鹿峠を通っており、この安楽越の交通量はそちらの0.1%もないだろう。

ちなみに、新名神高速はこの峠のほぼ直下を抜けている。

なお、甲賀市(滋賀県側)で会った地元の人々は、この峠の名前は知っているが正確な所在地は知らないようだった。三重県側の麓はどこなんですか?こちら側の麓は柘植あたりですか?など。安直な一般化はすべきではないだろうけれども、その程度の存在感の峠なのだろう。

県道302号線で安楽川を渡ったところ

おれは亀山駅まで輪行してからこの峠を目指した。亀山市街から県道302号線で軽くアップダウンしながら北上する。あたりは茶畑で、亀山茶と書いた看板も建っている。三重県の茶業研究室などという施設もある。地元の人には失礼かもしれないが、意外な感じである。

しばらく行くと安楽川を渡って突き当たりとなる。標高は50mあまり。

左折して安楽川沿いに安楽越を目指す。正面の新緑の山の麓にやけに高い高架橋が見えている。あとで知るがこれは新名神高速だ。

あたりは田んぼで、代掻きのみならず田植えの済んでいるところもある。カエルの声も聞こえる。道の勾配はきつくないがずっと上りが続く。ややダンプが多い。ロードレーサーもときどきいる。

途中で、峠名(と川名の)由来であろう安楽(あんらく)の集落を通過する。


新名神の高架橋の下謎言語の看板のある地点

しばらく行くと、さっき遠くから眺めた新名神の高架橋の下をくぐる。恐ろしく高い。この橋は何か工事をしているらしく、そのせいでダンプが来ていたようだ。

このあたりで田んぼの風景は終わりで、道は山間に入っていく。石水渓キャンプ場があり、それを過ぎると道は1.5車線になる。ここにはローマ字だけしか書かれていない看板があり、ESTREITA MENTO DE PISTA云々と書かれている。何語だ! おそらくスペイン語かポルトガル語なんだろうが(あとで調べると、これはポルトガル語らしい)。


渓谷沿いに行くミツバツツジとタチツボスミレ

道は明るい林の中だ。左に渓流があって水音がする。その中には巨岩がごろごろしているところもあり、なかなかの渓谷美を作っている。あまり変化はないが楽しい。

最初はヤマザクラが今まさに散りつつある箇所があったが、結局散り残っていたのはそこだけだった。木の花には他にはミツバツツジ(これも終わりかけ)があり、上っていくとヤブツバキも出てくる。開きかけの細かい花はガマズミか何かか。途中からは路肩にタチツボスミレが咲いているのに気づく(スミレにもいろいろあるわけだが、これは少しも珍しくないものである)。


上ってきた方角がちらと見える地点

ウグイスの声はするが、基本的にはあまり水音以外は聞こえない静かな峠道だ。

鞍部が近づいてくるとだんだん空が広くなり、ちらちらと上ってきた方角を見ることができるところもある。平野は見えているが、逆光だから、海が見えているかどうかまではわからない。


鞍部

じきに鞍部に到着。切り通しで、眺めの類はまったくない。

さっき抜いていったとおぼしきレーサーが休んでいる。市内からですか?と尋ねられ、少し話をする(市内とは、どこの市のことだったのだろう)。

東京から輪行で、という話をすると、東京から……。すごいな。わざわざこんなところに遠くから来るなんて物好きな、というふうにも聞こえる。


鞍部からの下り

彼(おじさんである)を見送って少し休み、出発する。上りではマツが多かったと思うが下りはスギが多い。


山女原

林の中を少し下っただけでもう耕地が開け、集落があるので驚く。山女原(あけびはら)だ。標高は350mほどもある。

その耕地は、去年剣峠で首をひねったのと同じような、草地に細い木が生えているというもので、本当に一体何を作っているのだろうか。耕地と道路は高い柵で区切られており、電気も流されているようなので、イノシシかサルか、あるいは両方なのだろうが、けっこう獣害が深刻なのだとわかる。

その集落を過ぎて少し行くと笹路(そそろ)で突き当たりに出る。右折して新名神の下をくぐって少し進み、左折して田村川を渡る。そのまま行くとまた田村川を渡って国道1号線に合流してしまうわけだが、川を渡る前に右折して田村川の右岸の田舎道を下る。軽いアップダウンだ。

そのまま進むとやがて田村神社という神社の前を通る。かなり大きい神社のようだ。それを過ぎると国道1号線にぶつかる。向かいは道の駅あいの土山だ。標高は252.1m。土山宿から隣の水口宿までは東海道を自転車で走ることができ、松並木などもあって、実に(かつ微妙に)風情があるので、おすすめしておきたい。

鈴鹿馬子唄の一節に坂は照る照る鈴鹿は曇るあいの土山雨が降るというのがあるそうで、どうも泥濘とかそういうのを連想してしまうわけだが、実際は緑が多くて適度にひなびたいいところである。探訪派は、特に土山宿にある東海道伝馬館にはぜひ立ち寄るとよいだろう。どうでもいいが、土山宿以西はやたらと飛び出し坊やというか飛び出し嬢ちゃんというか、そういうのが多いので、それもそれでまあ見ものではある。

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2015年7月9日初版