矢久峠
シンプルで爽快な林道峠
読み方 | やきゅうとうげ | |
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標高 | 810m | |
位置 | 群馬県多野郡神流町・埼玉県秩父郡小鹿野町 | |
道路 | 林道坂丸線(群馬県側の途中まで)・林道高萩線(群馬県側の鞍部まで) | |
水系 | 利根川・荒川 | |
実走日 | 2006年5月3日(水) | |
地図など | Google Maps・地図院地図 |
矢久峠は群馬・埼玉県境にある峠で、利根川水系の大河である神流川の筋と秩父を結ぶ峠のひとつだが、その中ではマイナーな部類に属するだろう。
交通量は少なく、眺めはなかなかよく、峠としての手応えもある。この峠は、自転車で走っていて楽しい、絵に描いたように見事な普通の峠と言っていいと思う。
ちなみに、書籍信州百峠および日本百名峠では、この峠を屋久峠と書いている。しかし現地で見たのは矢久峠の表記の方であった。なおこれらの書籍によると、この峠は十石峠とともに秩父困民党(明治時代に蜂起した武装集団)の転戦路であったようである。
おれは十石峠を越えてきて、そのまま神流川沿いに下ってきた。途中、国道299号線と国道462号線には、随所に旧道があり、これを走るのが楽しい。ただかなり道のりは長くなる。でもまあ、自転車旅行なんていうのはそれ自体が好きで遠回りしているようなものでしょ?
志賀坂峠を越えていく道を分ける前後から(つまり矢久峠の峠道に入る前から)、右手にがりがりとした稜線が見えてくる。石灰岩の採掘ですっかり形が変わってしまったという叶山である。山腹は新緑、手前の神流川は清流。ゴールデンウィークで交通量は多いが気分はいい。
矢久峠の入口はかなりわかりにくい。美容室 オリーブという看板だけが国道に出ていたと思う。ここの標高は376mだから430mほど上ることになる。
最初から1車線そこそこの集落道になる。勾配はかなり急である。なおここから先は分岐は多いのだが要所には小鹿野町とか矢久峠と書いてある看板が出ているので迷う心配は少ない。
集落はすぐ終わり、明るい林の道になる。そうはいっても昼下がりの北麓であり、路面にはほとんど陽が当たらない。左手には眼下の集落や神流川の谷を挟んだ山腹の建造物(ゴルフ場?)がちらと見えるが、これという展望ポイントはない。
道端にはヤマブキの黄色い花が多い。山腹にはぽつぽつとヤマザクラも咲いている。十石峠に多く見られたミツバツツジはここには全然ない。しばらく上ると、それほどの標高でもないのに、あたりはカラマツ林になる。同時にだんだんと陽が当たるようになる。
ゴールデンウィークだというのに通行はほとんどない。足元の国道462号線からはぶいぶいというバイクの騒音が聞こえる。
道自体はというと、勾配は麓の集落からずっと間断なくきつい。ヘアピンカーブがあっても、落差が大きいので頭上の道を意識する箇所はあまりない(林道井川雨畑線の山伏峠に似ている)。路面は全舗装だがやや荒れている。
展望はあまりないが、鞍部が近づくと神流川の対岸の尾根を眺める一角がある。この写真だが、右手の頭の丸い山は御荷鉾山で、中央やや左の頭だけ出ている三角形の山はオドケ山である。
やがて、急な左カーブの鞍部に到着する。
鞍部では桜の木の下に白い観音像(らしきもの)が安置してある。峠の標柱の類はない。埼玉側には、これまた盛大に山体をセメントの原料として提供してしまった武甲山が見える。
ここからは明るい谷の中を下っていく。群馬側とは異なり、少し下っただけで集落がある。山腹にへばりついた、狭い集落道に貫かれた、花のたくさん咲いている、遠くに武甲山を望む、静かな山村である。
吉田川の谷底に下りても、まだ標高は600m程度あるので、下りはまだまだある。県道282号線ははじめは1.5車線程度で、後に2車線になる。なかなか爽快な道だ。合角(かっかく)ダムを前にして、小鹿野町へショートカットする分岐に到達すると、標高は330m程度である。この分岐を曲がるのがおそらく秩父への最短ルートである。
2006年5月19日初版 / 2010年10月21日更新