長尾峠
非対称な眺めのある観光地の峠
読み方 | ながおとうげ | |
---|---|---|
標高 | 911m | |
位置 | 静岡県御殿場市・神奈川県足柄下郡箱根町 | |
道路 | 静岡県道401号線・神奈川県道736号線 | |
水系 | 狩野川・早川 | |
実走日 | 2015年10月25日(日) | |
地図など | Google Maps・地図院地図 | |
関連書籍 | 日本百名峠 |
長尾峠は御殿場から箱根に抜ける峠のひとつで、メインルートであろう北隣の乙女峠ほどは賑わってはいないけれども、鞍部が箱根スカイラインの入口になっているせいもあってか、まあなかなかの通行者のある峠である。しかし、観光地にある峠ではあるけれども、観光峠であるとまでは言えない。
西側では富士山の眺めがあり、東側では箱根の眺めがある。後者があるのは足柄峠との大きな違いだ。個人の感想だけれど、後者の方が印象的だった。
なお、峠としては、どちら側の麓もそれなりの標高があるので、既に麓にたどり着いていたならば峠自体は楽勝のはず、と思う。
おれは西側の御殿場からこの峠を越えることにした。御殿場駅の標高は455.4mもあり、峠までの上りはそんなにない。
御殿場駅から県道401号線を進む。交通量は多いが、東名高速の御殿場ICを過ぎるとそれはかなり減る。しばらく行くと国道138号線にぶつかるので右折して上る。
少し行くと長尾峠へ行く県道401号線の分岐だが、道路標識はなぜだか→箱根峠である。その一方でバス停は長尾口である。わかってるなあ、箱根登山バス!
その交差点を右折してほんの少し行くと右側に乙女駐車場(この名前も……)がある。御殿場の市街地を見下ろし、その向こうに富士山とその雄大な裾野を見る。風が強く、猛烈な砂塵がときどき巻き上がっている。
さて出発。道は基本的には明るい林の中でほとんど眺望はないが、標高640m地点付近で脇道に入ると眺めがいいところがある。眺めの内容はさっきの乙女駐車場とだいたい同じである。
この付近では道端にキバナアキギリやサラシナショウマ(たぶん)の花がある。なおこのあたりまでは路傍にはノハラアザミも多い。
さっきの国道と比べると交通量は少なくて走りやすい。近年たいていの舗装峠にいるロードレーサーもいない。しかし、どうも見ていると走ってくる自動車やバイクにはある種の偏りがあるような気がする。まあ、あれだ――カッコつけたがる人々が多いように思える。もちろん全部がそうというわけではないにせよ。
もちろん他人のすることだから特に言いたいことはないのだが、どうしてここにそういう人が集まるのかはちょっと社会学的に興味の湧くところかもしれない。まあ、実際興味はないけれど。
地形図は持ってきているが、道が単調な上に対照物が全然ないので、自分がどこにいるのかはほとんどわからなくなる。ちなみに勾配は恐ろしく緩い。
やがて空は明るくなり、行く手右側の逆光の中に何かの施設の建物を見上げるようになる(しらびそ峠を思い出す)。そして右手後方に富士山の眺めが開けるようになると鞍部である。
しかし……ここはスカイラインの入口なんだろうが、道がどうなっているのかわかりにくい。どうも左折が長尾峠のトンネルのようだ。峠であることを示す看板の類はない。ちなみにさっき見上げた施設は茶屋のようだが、時間帯(朝10時)のせいか、季節のせいか、それとも別の理由のせいか、やってなかった。
どうもまあ、足柄峠と同じように、あんまり愛情の湧かない峠だったよなあ、と思いながらトンネルの中をペダルを踏んで進む。
しかし――そのトンネルを抜けると目の前は恐ろしくいい眺めである。その瞬間に長尾峠の評価はうなぎ上りとなる。
まあ観光地らしいと言えばそうなんだろうが、左には仙石原のススキ野原を見下ろし、そして手前側にはゴルフ場を見る。その向こうには最近活動中の大涌谷の湯気が立ち昇り、右手には逆光にきらきらと光る芦ノ湖の湖面が見える。そこにはいくつもの船影が見える。はあ……雄大とかではないけれど、箱庭のように箱根を見下ろしているという感じだろうか。
なお、こちら側には長尾峠の名前が入った看板や石碑が存在する。神奈川県と静岡県で、この峠に対する愛の水準が違うのかもしれない。
ここにはレーサーのおじさんがいておれと同じように写真を撮っていた。少し話す。今日は寒くなくていい、と言う。確かにそうだ。霧が出ていて何も見えないうえに非常に寒いというケースもあるのだとのこと。
このおじさんは御殿場の人で、これから引き返して御殿場に帰るということで、おれよりも一足先に出発していった。まあ気にすべきことではないけれど、何だか話し方に品のあるおじさんだった。
さて出発することにする。開けた感じの道を下る。尾根は近く、山腹はうっすらと紅葉が始まっている。右手に芦ノ湖の眺めがある地点もときどきある。御殿場側と比べるとはるかに交通量は少ない。かなりの量がスカイラインに流れたからだろう。
しばらく行くと乙女峠を越えてきた国道138号線にぶつかる。右折して下り続けるわけだが、交通量は多い。その一方で道路がよくなるのでかなりのスピードが出る。
やがて集落が始まる。仙石原の中心街のようである。個人差はあるだろうが、このムードは探訪派自転車野郎には合っていないようにおれには思える。確かに自然はいっぱいなのだけれど。
でもまあここに来てしまったのだからしかたがない、やけっぱちで行楽客気分になって芦ノ湖経由で小田原に下りることにする。仙石原の標高は650mほどで、芦ノ湖の湖面標高は725m。そしてもちろん小田原の標高はほぼ0だ。
2016年2月4日初版