茱萸ノ木峠

風の通り抜ける峠

読み方ぐみのきとうげ
標高610m
位置埼玉県秩父郡東秩父村・皆野町
道路林道上ノ貝戸線(東秩父村側)
水系荒川

実走日2012年11月18日(日)
地図などGoogle Maps地図院地図

茱萸ノ木峠というのは、釜伏峠二本木峠の間にある峠の名前である。その両者と同様に山里の雰囲気があるが、それだけではなく途中で別荘地(のようなもの)を突き抜けていったり、非常に眺めがよかったりするので、かなり違った峠である。葉原峠とはまた別の意味で異世界的なところがある。

鞍部の名前が茱萸ノ木峠だということと、東秩父村側からは上る車道があるということはわかるのだが、かつての峠道がどのようなものだったのか、特に皆野町側はそもそもどこが麓だったのか、あるいは新しい峠でありそんなものはないのかは、情報がないのでわからない。

書籍秩父の峠によると、長瀞町と児玉町の境(つまり、この峠からそれほど遠くないところ)にぐみの木峠という峠があるそうだ。もちろんこの頁で紹介している峠はそれとは別のものである。

上ノ貝戸

峠に上る方法が東秩父村側しかわからないので、おれはそちらから上った。寄居の市街地(寄居駅の標高は98.6m)から県道294号線で上る。東秩父村の村域に入って少しして道は鞍部(標高は250m)を越える。下り始めて2本目の道の入口に大内沢 花桃の郷と書いた大きな木の標柱があるので、それを入る。ここには集落の案内図があり、その地図には茱萸ノ木峠の文字がある。

ちょっと行くと斜面にへばりついた上ノ貝戸の集落が始まるのだが、その入口にきれいな石板でできた碑がある。読んでみると、道路建設のための土地の譲渡に関するいざこざの説明が、一方の当事者からの恨みつらみをこめて書いてある。こういうものが集落の入口にあるというのはさすがに珍しいと思う。

行く手の左側に展望台があるのが見える。ちょうど道がそのそばを通るので上ってみることにする。自転車を停めてドーッとまっすぐな階段を上がると大内山 標高324米の標柱が建っている。


展望台からの眺め

展望台からは上ノ貝戸の家々やみかんの果樹園を一望にすることができる。遠くには関東平野も見えるし、その向こうの雪化粧した男体山も見ることができる。

この写真だと、おれはおおむね右側から上ってきて、これから正面の斜面を折り返して左に進み、その後また右に折り返していくというところである。男体山は関東平野の左寄り奥に見えている。

なおこの展望台に置いてあった案内図では、これから向かう峠の名前はぐみのき峠になっていた。


上ノ貝戸の集落を抜けるあたり

さて展望台を過ぎ、右に左にと折り返して集落の中を上っていく。みかんの果樹園があるが風布(葉原峠参照)ほどは観光化されていない感じだ。

集落を抜けるあたりで振り返ると、背後には関東平野、そしてその向こうの平べったい筑波山が見える。

それにしても、空はよく晴れているというのに、その中に雲が常に存在する帯状の領域があり、その片隅に太陽が隠れ、なかなか陽が当たらない。風はとても強くて寒い。

見ていると、その雲の帯の風下側(平野側)の端では雲は平野側に流されながらすーっと青空に溶けて消えていく。そしてその向こうの平野の上空は快晴。これは……山越えの旅をしてきた季節風が平野に吹き出し、からっ風になるその場面をおれは見ているということ? 別にどうということでもないが、ちょっと感動した。


林の中の上り都心部を眺め下す

さてここからは明るめの林の中の登坂である。折り返すところもあるがあまり急峻な感じはしない。少し行くと右手にまた関東平野の眺めが出るところがある。都心部がよく見え、針のようなスカイツリーがはっきりわかる。


立ち並ぶ建物の間を行く

その付近からは別荘なのか普通の民家なのか、新しくて洒落た感じの建物が並ぶようになる。ちょっと意外な展開だ。建物がきれいなので、よくあるうらぶれた陰気な別荘地(例えば三和峠あたりのような)とは雰囲気が違う。見ているとベランダに布団を干している建物もあり、実際に人の気配がある。

ちなみに、このあたりの建物は、さっきの展望台から左上方の尾根近くの山腹に見えていた。

それを過ぎるとあと少し。電波塔への道(立入禁止だった)を左に分けて、折り返して最後の上りにかかる。かなりきつく、立ち漕ぎでどうにか上る。


鞍部

やがて尾根道に突き当たり、鞍部に到着。前に釜伏峠から南下してこの尾根道を走ったことがあり、そのときには何かがあった覚えがなかったのだが、実際こうして再訪してみると小さい道標があるだけである。振り返るとずいぶん貧相な道を上ってきたものだなと思う。

ここから尾根の反対側に下りる車道はないわけであるが、尾根道を少し北、つまり釜伏峠側に行くと左に平草へ下りる車道がある。そこへ向かう。別荘か民宿か何かの名前を書いた小さな立札があり、コンクリート舗装で黄色いヒノキの落ち葉に覆われた小さな道が分岐している。あまり気が進まないがこれに違いない。


皆野町側の眺め

下り始めてすぐに目の前が開け、広々とした眺めが広がる。そしてまた別荘的な建物がある。これまた意外な展開だ。

山は左には武甲山、中央付近には両神山、右には御荷鉾山などが目立つが、どうやら蓼科山や浅間山の裾野も見えていたようである。冬型なので頭は雲の中だったようだが。そして秩父や皆野の市街地、皆野方面の荒川の水面なども見える。

それを過ぎると林の中の下りである。こんな山中にグラウンドがあり、カキーンと鋭い金属バットの打撃音や掛け声が聞こえてくるので面食らう。


県道361号線

グラウンドからもガタガタのコンクリートの路面の相当に狭い道を下っていくと、やがて平草の集落に出た。去年釜伏峠から下ってきたときに通ったところだ。当時あった(笑)入りの手書きの掲示はもうなく、林道能林線と印刷された紙が代わりにガードレールに貼ってある。

今回は県道361号線で麓まで下ろうと思う。平草からは林の中を少し上る。0.2kmごとに二本木峠までの距離(釜伏峠経由だ)が書かれた距離標が建っている。すぐに道は下りに転じる。

釜伏峠の頁でも書いたが、この道筋は釜伏峠の道筋であったらしい。

県道ではあるが交通量はとても少ない。道幅は狭く、ガードレールもろくにない。ただの田舎道である。小根の集落まで下ると道は広がる。やがて県道82号線にぶつかる。標高は180mあまり。

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2013年2月21日初版