足柄峠
森と眺望と歴史のある峠
読み方 | あしがらとうげ | |
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標高 | 740m | |
位置 | 静岡県駿東郡小山町・神奈川県南足柄市 | |
道路 | 静岡・神奈川県道78号線 | |
水系 | 酒匂川 | |
実走日 | 2017年12月3日(日) | |
地図など | Google Maps・地図院地図 | |
関連書籍 | 日本百名峠 |
足柄峠は、箱根の北側にある、静岡県と神奈川県の県境の尾根にある峠である。古い歴史があり、緑があり、しかも富士山と御殿場市街の展望もよい。しかし道路としてはあまり整備されていないので、笹子峠と同様、探訪派にもってこいと言えば、まあそうだ。
おれはこの峠には2006年にも来たのだが、天候のせいもあり、三国峠との連戦だったせいで午後になったこともあり、眺望がいまいちで、ずっと心残りだった。それで12年ぶりくらいに再度訪れてみたのだが、どうも2006年当時に持ったコテコテでベタベタの観光峠という印象は、かなりひねくれた見方だったなあ……と思った。素直になりなさい。
この峠の静岡県側の麓には御殿場線の足柄駅がある。標高は330.1m。御殿場駅の隣の駅なわけだが、付近はひなびた山里で、静かな感じの駅である。駅前にはデイリーヤマザキと立派な公衆トイレがある。
踏切を渡って右折して駅の裏手に回り、登坂にかかる。集落の背後の斜面をトラバースして上っていく、大洞峠の小川村側や小川峠の明宝側のような(若干しりとり風味)上り始めだ。少し行くと鮎沢川の谷の向こうの尾根の向こうに富士山が見える。
暗い針葉樹の林の中に左カーブして入る。初めのうちは背後に富士山が見えるが、すぐに見えなくなる。この付近ではタヌキが路面にいるのを見かけた。
あまり勾配はきつくない。路面はほとんどの区間で1.5車線くらいしかなく整備された印象もない。暗い林の区間が多く、日光がチンダル現象を起こしているのを見るが、それ一辺倒ではなく、黄葉のきれいな広葉樹の多い区間もある。路肩にはもちろん花はほとんど咲いていないが、唯一アザミの花がほんの少しだけ見られる。
しばらく行くと右側に大きな石碑があった。立札によると栗の木沢の唯念名号碑。1839年にできたもので、唯念上人という僧による南無阿弥陀佛の書を彫ったものだそうだが、かなり迫力のある字体だし、碑自体の形もちょっと面白いので、なかなかアーティスティックに見える。
そのすぐそばに伊勢宇橋という橋があり、それを過ぎると勾配はいきなりかなり急になってくる。ヘアピンカーブによる急な折り返しが出てくるが、それによって勾配が緩くなることもない。またそのあたりからは暗い林の中の区間が多くなる。
ところで、どこからだったか忘れたが、この峠は自動車か何かのエンジン音が遠くから聞こえてくる。富士スピードウェイなのだろうが、これで地元住民は気にならないのかねという気はする。
しばらく上るとまた林が明るくなり、やがて左から県道365号線が合流してくる――路線番号上はそうだが、実際にはこちらが県道365号線に合流したような形になっている。道幅も広くなる。
この付近では眺めが開けてきて富士山が見える。道路沿いではそこから少し進んだあたりが最もいい眺めのようだった。見えているのは、朝から出ていた笠雲のほとんど消えた富士山と、その手前の御殿場の市街地(正確には富士山よりもかなり左寄り)。
もちろんのことだが、午前中に来た方がこの眺望を楽しむにはよい。
あとはじりじりと明るい尾根下道を行く。道端に芭蕉の句碑や六地蔵などがある(前者は帰ってきてから知ったが)。
やがて鞍部に到着。鞍部はコンクリートに固められた切り通しで、頭上に徒歩道の橋が架かっている。左側に階段があり、その切り通しの上に上ることができる。なお金太郎富士見ラインと書かれた標識もあって、この道路はそういう名前らしい。
自転車を停めてその階段を上り、草地に出る。ここはただの公園というわけではなく足柄城址ということだ。郭から郭に渡って少し行くと富士山を眺めるベンチがある。そこに腰掛けて風景を眺めながら昼食とする。
左の眺めは愛鷹山から始まり、雄大な富士の裾野と御殿場の市街地があり、白い富士山があり、そして右には(あとで調べて知ったが)三国峠のある尾根がある。いい眺めだし、この城跡もあまり人がいなくて静かだが、やはり富士スピードウェイの騒音がうるさい。
食後はそのまま自転車には戻らずに散歩をすることにする。橋を渡って峠の東側に回り込む。やがて道路に出るが、そこには足柄之関跡とかあずまはや 足柄峠 標高759米 静岡県小山町とかの標柱がある。
かつて長野県に住んでいたおれとしては、あずまはやっていうのは碓氷峠じゃないの?と思ったのだが(長野県歌信濃の国参照)、あとで調べると、諸説あるらしい。
そこからは道路を歩いて自転車に戻る。全体的に石碑や標柱や看板の類がやたらある峠だが、戻る途中にあった聖天堂には足柄山聖天堂 電氣電話開通 記念碑というものまであった。
自転車に戻り、下り始める。少し行ったところに県境があり、そこから少し行くと今度は足柄万葉公園の案内図がある。万葉広場というものがあって歌碑が置かれているようだ。時間もあるし寄っていこうと思う。
万葉広場という名前ではあるが、特に広場らしいものはなくて、緩い尾根が続いているだけである。そこにぽつぽつと歌碑があり、足柄山に関係ある万葉集の歌が彫られ、解説の看板がある。彫られた字は素朴な味があり読みやすい。あと歌碑以外にも植物名とそれにちなんだ歌を載せた小さい看板が多数ある。
案内看板によれば、歌碑は全部で7つある。全部発見するのには何と言うか発想の転換のようなものが必要だったように思うが、それはおれだからかもしれない。
ぐるりと見て回ってから自転車に戻り走り出す。さっきの万葉広場も部分的にそうだったが、神奈川県側の平野の眺めがある。市街地が見えるが、小田原は手前すぎて見えないはずだ(あとで調べると、松田あたりから国府津あたりまで見えていたようだ)。
15%という勾配標識があり、実際けっこうな下りである。しかしそう道幅が広いわけでもないし、かなりカーブも急なので、飛ばすことはできない。
最初の15%の次は12%、15%と勾配標識が続く。やがて谷川沿いに出るのでこれで急勾配は終わりかと思ったがそんなこともなく、そのあとも10%の標識が2回ある。このあたりからは道は広くなり、かなりかっ飛ばせる区間が出てくる。しかし2006年当時の記憶にあったカーブでの凹凸(減速させるために路面に施されているアレ)の舗装もやはりあり、そこはけっこう走りにくい。
上りの途中ではほとんど見かけなかったと思うが、こちら側にはけっこうロードレーサーが多い。こんな時間に上ってきていつ帰るんだろうという気はする。
やがて関場で県道726号線の分岐に出る。標高は250mほど。おれは左折して酒匂川沿いに出たが、直進して大雄山駅の方に出るのが普通かもしれない。いずれにしてもこのへんで本格的な峠の下りは終わりである。
2007年3月11日初版 / 2018年4月5日差替