山中峠
閑雅な廃線跡の峠
読み方 | やまなかとうげ | |
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標高 | 270m | |
位置 | 福井県敦賀市・南条郡南越前町 | |
道路 | 福井県道207号線 | |
水系 | 木ノ芽川・九頭竜川 ※木ノ芽川は今回走った道の上りはじめの水系であり、鞍部には接していません。 | |
実走日 | 2010年9月25日(土) | |
地図など | Google Maps・地図院地図 |
山中峠は、木ノ芽峠と同じ稜線の北側にあり、敦賀と今庄を結ぶ峠である。よく木ノ芽峠が歴史ある峠として言及されるけれども、峠道自体の歴史は山中峠の方が古い。
しかし山中峠を特異なものにしているのは、むしろ北陸本線の旧線跡をほとんど道路に転用してあるという、近現代の事情の方である。実際おれもそうでなければ山中峠に行きたいとは思わなかったはずだ。
この道路が線路だった時代は、もちろん単線非電化で、最急勾配は25‰。トンネルは11あり、その合間から見下ろす敦賀湾の眺めは絶景といわれていた。1962年に13870mの北陸トンネルが開通して、この線路は廃線になった。
敦賀の南側には、同様に北陸本線の旧線跡を道路にしている、柳ヶ瀬トンネルの区間もある。そちらはとても断面の小さいトンネルで、1994年におれが行ったときは軽車両通行止だったし、実際とても危険なトンネルだった。それと比べると、この山中峠の道路ははるかに安全で、自転車でも走りやすい。実際交通量もかなり少ないことだし。
おれは敦賀から北陸本線の旧線跡をなぞって走ることにした。国道476号線に入って進む。木ノ芽川沿いの2車線の上りである。途中で北陸トンネルの入口への入口(ややこしいな)の看板が立っている。
北陸道の下り線と並走し始め、樫曲の集落を過ぎると、左に短い鉄道トンネルが残っている。中を通ることはできるが、通り抜けてもまた国道に出るだけである。旧線の図によるとこの付近にトンネルは2つあったはずなのだが、それらしいものはこの1つしか見当たらない。
しばらくじりじりと上り、獺河内を過ぎて葉原へ。少しわかりにくいが、右にそれて進み、国道476号線の下をくぐり抜ける。両脇を北陸道の上下線で固められた、段々の田んぼが広がる。標高は150mあまり。
道幅は1.5車線ほどとなり、交通量も大幅に減って雰囲気が出てくる。短いトンネルを1つ抜けて葉原トンネルに到着する。長いトンネルで向こうは見通せない。信号機があり、待ち時間約5分とある。青になるのを待ってトンネルに進入する。自動車と自転車のすれ違いができる程度には広いし、蛍光灯による照明もあり、あまり怖くはない。漏水はかなりある。なお壁にはかなり頻繁に待避所(まあ小さな穴のようなものだが)がある。
葉原トンネルを抜けると目の前が開け、海と敦賀半島が見える。そして手前には柵1枚を隔てた北陸道の上り線も。静寂さはなく、ちょっと変わった雰囲気である。
短いトンネルを1つ抜け、また長めのトンネルにさしかかる。曲がっておらず向こうが見通せるからだろうが信号機はない。それはいいとして、かなり長いのに照明がないのには面食らう。走っているとだんだんと平衡感覚がなくなっていく。
それを抜けると北陸道のパーキングエリアがある。その下をくぐって、北陸道の上下線よりも海側に出て、北陸道と別れる。ここからは県道207号線である。
少し行くと再び海の眺めが広がる。もう高速道路の騒音はしない。交通量も少ない。行く手の道路は狭くてまっすぐ。トンネルの入口も見える。いい道だ。セミの声がまだする。麓では秋の虫の声を聞いた覚えがあるが。
さてそこからはトンネルが連続する。明かり区間はあまりないが、眺めのとてもいい箇所もある。5つ目の伊良谷トンネルには信号機がついていて待ち時間約3分とある。それをクリアすると、最後のトンネルである山中トンネルに到達する。
山中トンネルはかなり長いがまっすぐで、ぽつりと丸い出口が見えている。休んでいると向こうから自動車が入ってきた。広いとはいえないトンネルだからスピードを出せないせいもあるだろうが、その自動車が出てくるまではとても時間がかかる。
さておれもトンネルに入る。他のトンネルに比べると漏水はやや多めだ。トンネルを抜けると右手に細長い空き地とトンネルがあり、スイッチバックの折返線と知れる。
ちなみに、山中トンネルを抜けたところが最高所である。パーキングエリアを過ぎてからここまでのトンネルは、すべて上りだったわけだが、その勾配は 25‰か22.2‰に過ぎず、通過は楽だったといえる。
少し下ると山中峠の名前の入った案内看板と標柱がある。山中峠が木ノ芽峠よりも古い峠であることはこの案内看板で初めて知った(ちなみに、木ノ芽峠が開削されたのは830年と書いてある)。
さてこの地点はふるさと林道の入口でもあるし、トンネルの上の山中峠の鞍部の入口でもある。林道を走るつもりはないが、鞍部へは行ってみようと思う。少しペダルで上ると左側に徒歩道が分かれており、山中峠 ここより700mとある。自転車を停めて歩く。
沢伝いに行き、丸木橋を渡り、クモの巣をかきわけて登ることしばし、木立の中の鞍部に到着。小さな地蔵尊と標柱の他には何もない。海がよく見えるのではないかと期待していたのだが、明るい林が急斜面に続くばかりで、海面はよくはわからない。また海側に下る徒歩道はなさそうである。
引き返し、県道207号線に戻って続きを走る。少し行くと信号機をかたどったユニークな山中信号場 待避線跡地の標柱と案内看板がある。看板には南越前町の文字があり、新しいことがわかる。それにしてもこんな親切な看板の出ている廃線跡は少数派だろう。
それを過ぎてゆったりと下る。深くはない杉木立とススキの穂。緩いカーブと勾配(25‰)。自転車で下るにはもってこいの道路だ。鉄道の遺物っぽいロックシェッドがあり、その中を進むところもある。
いかにも廃線跡らしい築堤の上を走って大桐の集落を過ぎて少し行くと右側に大桐駅跡の大きな看板と案内看板がある。ホームが草むらの中に残っている。
やや道幅は広くなったがまだ線路跡の道は続く。新道(地名)では白いそばの花が美しい。やがて北陸トンネルの看板を過ぎ、南今庄駅を過ぎて、廃線跡の道路は終わり、今庄の市街地の入口に到着する。標高は130mあまり。
2010年11月11日初版