大鍋越
わさび田のあるダートの峠
読み方 | おおなべごえ | |
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標高 | 630m | |
位置 | 静岡県賀茂郡河津町・下田市・賀茂郡松崎町 | |
道路 | 静岡県道115号線(鞍部の前後は除く) | |
水系 | 河津川・稲生沢川・那賀川 ※河津川は厳密には鞍部には接していません。 | |
実走日 | 2015年10月3日(土) | |
地図など | Google Maps・地図院地図 |
大鍋越は、伊豆半島のかなり南寄りにある尾根を東西に横断するところにあって、東伊豆の河津と西伊豆の松崎を結ぶ最短コース上にある峠でもある。しかしまあ、この峠道を最短コース目的で使ってはいけない。
何よりもまずこの峠は通行止なのだが、まあ自転車で突破することは物理的にはできることはできる。ただしダートがあるからロードレーサーにはまったくすすめられない。意外なことにと言うか、国士峠の例があるから意外でも何でもないと言うか、わさび田が沿道にけっこうあり、そういう意味では土地柄を感じることができる峠ではある。展望はないわけではないがけっこう微妙だ。
おれはこの峠は東側の河津側から上った。高架で開けた感じの河津駅を出て北上する。地図に出ているメインルートは県道14号線だが、律儀にそれに入らなくても、その河津川の対岸にある道もそれなりに整備されているので、少なくとも自転車にはおすすめできる。
しばらく河津川の左岸をさかのぼり、橋を渡ってきた県道に合流する。海が近いことを忘れるような広い谷間の道になっている。少し行くと今度は左から国道414号線が合流してくる。
そこから少し行くととうとう左に大鍋越へ行く県道115号線が分かれている。ちょうどそこで工事をやっているので看板がたくさん出ているが、その中にまぎれて、この先松崎町へは通り抜けできません、と書いてある看板もある。はっはっはっ、そうか。しかし理由が6kmの間落石や路肩崩壊があり危険ですということで具体性がないし、対象が一般車両だし、看板自体が古ぼけていて出しっぱなしであることが明白であるから、都合よく解釈して、見なかったことにすることに決める。
山峡にぽつぽつ集落が続く。道は2車線あるところもあるが一部だけだ。路傍にはツユクサやノハラアザミがちらほら見られる。しばらく行くと大鍋の集落だが、ちょっと狭苦しい谷間にあり、道は完全1車線のコンクリート舗装である。思い出すのは太良ヶ峠だ。
その集落を抜けるといよいよ峠道だ。やや暗い林が続くが、左にさっき通り抜けてきた大鍋の集落を見下ろす地点もある。
それを過ぎて少し行くととうとう道はダートになる。さらに上ると真っ赤に錆びたゲートがあり(ただし開いていた)、車両通行止の標識や、歩行者も含めて立ち入りを禁じる旨が書かれた危険区域なる看板が出ている。まあこれを見てもすることはいつものように素通りだが。
ここからは本格的な林道走である。しかしずっとダートというわけではなく、ときどきコンクリート舗装が混じる。路傍にはタマアジサイが多いが、草では異様にマツカゼソウの白い花が多い。
少し行くと、標高400m弱あたりにヘアピンカーブで斜面を折り返していくところがあるが、そこでは沢沿いに作られたわさび田を横切るところがあり、ちょっと目を疑う。わさび田は人里の近くにあるという(おそらく松本に住んでいたときのせいの)イメージがあったのだが、それにこんな山の中で出会うとは。
わさび田はそこだけではなくもう少し上にもあった。みかんの果樹園でよく見かけるニッカリのモノラックが敷設されていたりもする。収穫の時期なのかどうかよくわからないが、道端には自動車が停まっているので人は入っているようだ。
やがてそれまで聞こえていた沢の音は遠ざかり、空は広くなる。道端のマツカゼソウはますます多い。
なかなか眺めは開けないが、左手彼方、木と木の間に、ちらちらと海面とその向こうの陸地とそこにある白く傷ついた崖が見える箇所がある。稲取あたりの半島が見えているのかと思ったが、帰ってから調べるとそれは伊豆大島としか思えない。それがそんなに鮮明に見えるものなのかどうかは謎なのだが。
そしてそれとともにウィンドファームもちらちらと見える。そして海面上に富士山型の島――これも帰ってから調べると利島――が見える地点もある。
大鍋越の鞍部は近いのだが、けっこうすごいダートでペースは上がらない。かなり路面が悪いし、1箇所だけだが路面に木が倒れているところもある。これでは四輪車の通過は不可能だ。
いったん627mの鞍部を越え、それまでの河津川流域・河津町域を出て稲生沢川流域・下田市域に入り、ぐっと最後の上りをクリアするとそこが本物の大鍋越だ。左に林道が2本分岐している。丸太が積んであって木の香りがし、ここだけは普通の林道っぽい。行く手の眺めはあるが、ひたすら山ばかりで海は見えない。
丸太に腰掛けて昼食にする。この鞍部はとても風が強く、路面から砂塵が巻き上がっており、あまり食事をしたい感じではないが、まあしかたがない。
さて出発である。こちら側の下りは一応コンクリートで全舗装のようだ。道沿いにはマツカゼソウが相変わらず多い。しばらく下るとこちらにもわさび田が出てくる。上りで見たものと異なり、道自体が沢沿いなので、それは道と沢の間にくさびを打ち込んだように細長く作られている。
しばらく下ると道はアスファルト舗装になり、がぜん速度も上がる。
やがて池代、大澤と集落を過ぎる。後者では川沿いに桜並木が作られていてその中を行くのだが、道は1.5車線ほどしかなくて狭いのにまっすぐである。脇には人家がある。ちょっと変わった雰囲気の道だと思う。
それを過ぎると道は県道15号線にぶつかる。松崎は右折だ。ほんの少し行ったところに道の駅花の三聖苑伊豆松崎がある。しかし……秋の行楽日和の休日だというのに、駐車場は恐ろしくすいている。伊豆もここまで奥に来るとこんなものだろうか。
ここは帯広の開拓者である依田勉三の出身地だそうで、彼に関する展示がある(道の駅らしくはないが)。北海道にゆかりのある人は立ち寄ってみるとよいだろう。
ここの標高は30mほどしかない。しばらく桜並木沿いに行けば(伊豆半島の先端あたりはやたら川沿いの桜並木が多い)、海沿いの松崎の市街地に出る。
2015年11月12日初版