木ノ芽峠
忘れ去られつつある、かつての北陸道の難所
読み方 | きのめとうげ | |
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標高 | 620m ※これは鞍部の標高です。前後の道路はもっと標高が高い可能性があります。 | |
位置 | 福井県敦賀市・南条郡南越前町 | |
水系 | 木ノ芽川・九頭竜川 | |
実走日 | 1994年9月8日(木) | |
地図など | Google Maps・地図院地図 | |
関連書籍 | 日本百名峠 |
木ノ芽峠は、福井県の、現在でいうところの嶺北と嶺南を隔てる尾根を越える峠である。由緒正しい峠であり、平安時代に北陸道として開かれ、例えば若き日の紫式部も越前入り時にはこれを越えた……という。
なお、この峠は越前国の峠であって国境の峠ではない(峠の北が越前国なのはもちろんだが、峠の南の敦賀も越前国に属する)。
国土地理院の地形図を読む限り、この峠には敦賀側から上る車道があるようなのだが、実際に走れるのかどうかはわからない。少なくとも、おれが訪れた当時のツーリングマップには、そういう道は載っていなかった。それでおれは東隣りの栃ノ木峠から尾根筋を走ってこの峠に到達した。
有名な峠ではあるのだろうが、観光客はほとんど訪れず、ひっそりと静まり返っている。国道476号線の木ノ芽峠トンネル(1783m)が2004年3月に開通しているため、もはや永遠に忘れられた峠のままだろう。
おれは、滋賀県と福井県の県境に位置する栃ノ木峠(国道365号線)からピストンで木ノ芽峠を目指すことにした。
この栃ノ木峠という峠は、北ノ庄(福井市)と安土を結ぶ近道として柴田勝家が整備した峠だそうで、こちらもまたそれなりの歴史がある。なお、この国道365号線も、走ってみるとなかなか味のある道路ではある。交通量も多くはない。旅ノートのある清水があったりもした。
ついでながら、ここより南で国道8号線と国道365線を結ぶ柳ヶ瀬トンネルは、北陸本線の旧線跡だという点で惹かれる人もいるだろうが、軽車両通行禁止だった。無視して突破を試みて側壁にぶつかって転んで怪我&大修理という目にあった奴もいるので(おれですがね)、自転車での通過は絶対におすすめできない。
栃ノ木峠から木ノ芽峠へ行く道はダートの林道である。上ったり下ったりだが上りが多い。栃ノ木峠の標高が538.8mだから、全体としては上るわけだ。しかし別にきつくはない。
しばらく進むと左手に水面が見えた。一瞬考えてしまったが、これは敦賀湾なのだった。大きな船がゆっくりと動いているのが見えた。山に囲まれているのでまるで湖のように見えた。
道は思いのほか長く感じた。風景は悪くないのだが、全く人気がないので少し怖い。
木ノ芽城の看板を過ぎ、少し行くと使われていない峠の茶屋があった。そのすぐ脇に超急坂のダートの上りがあり、どうもそれがあやしいので自転車を押して上った。果たしてそこが鞍部だった。
石畳の道が整備され、木ノ芽峠の石碑がある。奥にはわらぶき屋根の建物があり、けむ出しからぽわんぽわんと煙が立ち昇っていた。日本昔ばなし的な風景である。
その建物に行ってみたが人気はない。ジュースの自販機があるが使えない。あとはおとなしい犬がいるばかり。静かすぎるほど静かで、北陸道の重要峠であった時分のことは想像できないが、それもまた忘れられた峠らしいとは感じた。
2002年1月7日初版 / 2010年11月11日更新