俵山峠

眺望と草原の峠

読み方たわらやまとうげ
標高710m
位置熊本県阿蘇郡西原村・南阿蘇村
道路熊本県道28号線
水系白川

実走日2017年5月27日(土)
地図などGoogle Maps地図院地図
関連書籍九州の峠

俵山峠は阿蘇の外輪山の、時計で言うと9時くらいの位置にある峠である。すぐ北には外輪山上の穴があって、そこでは白川がカルデラから西に流れ出しており、その谷沿いには大動脈である国道57号線が通っているので、この峠道にはそのバイパス的な意味合いもありうる。

この峠については、それこそ20年以上前から、越えたい越えたいと思っていた。その機会のないうちに、新道のトンネルができたが(2003年)、2016年の熊本地震で峠道は新旧ともに破壊されてしまった。が、その後、旧道も新道のトンネルも再開通した。――という話を聞き、そしてついに機会を得られたので、喜んで越えに行くことにした。

ところでこの峠の特徴を書くと、まずとても眺めがいいことが挙げられる。事前に地図などからそういう情報は得ていたが、実際に行ってみると、西側の熊本平野の眺めも、東側の阿蘇の眺めも、ともにとても素晴らしいものだった。そして次に、あまり木が生えていなくて草原の中を走る区間が多いということも挙げられる。これのおかげでかなり開放的で気持ちのいい峠道になっているのだが、これについては阿蘇の周辺ではそこまで珍しくはないのかもしれない。

畑の中を行く

おれはこの峠は西側(平野側)から越えた。何しろ決行を決めたのが前々日の夜なので、峠の麓までどう行くかはあまり練っていなかったが、まあクスノキの並木のある県道36号線がいいだろ、ということでそれを走った。そしてまあ、よくあることだが、これはあまりよろしくない選択だった。

片側2車線で交通量はかなり多く、歩道は狭くてでこぼこで草が生い茂っているので自転車が走るのには使えない。そしてダラダラとした上りである。並木は確かにあるが、そのおかげで、これから越えようという阿蘇の外輪山は見えない。

熊本空港のあたりで並木は終わり、道は県道206号線になる。両脇は畑になり、正面に山が見えてくる。左手の奥の方に風力発電の風車が見え、その辺の山腹には道路らしいコンクリートの被覆も見えるので、俵山峠はあっちだろうなと見当がつく。

交通量はさっきほどではないがやはり多い。阿蘇大橋が落橋して、南阿蘇に国道57号線経由で入りにくくなったことが影響しているのだろうか。

あとで知るが、阿蘇大橋が通れない以前に、国道57号線自体が通行止だったのだ――考えてみれば、阿蘇大橋は国道57号線ごと破壊されてしまったのだし。それは混むはずだが、それくらいは調べて行けよ、おれは……。


萌の里付近

途中で道は県道28号線になる。さっき遠くに見えた風車群が正面に近づいてくるが、そこで(県道225号線が左から入ってくる交差点で)、この先全面通行止、迂回してください、という看板が出ているので驚く。右折しなければならないのだが、俵山ルート→のような看板もあるから、俵山峠自体が通れないのではないことはわかる。

その迂回路はしばらくけっこうな勾配で上り、次いでほぼ一方的に下る。後半の区間には10%の下り、9%の上り、10%の下りの勾配標識が連続する。どこを走っているのかよくわからなかったが、知らないうちに道は元の県道28号線に戻ったらしかった。要は、この付近にある大切畑ダムの直下を通るのを避けて迂回したようだ。

やがて萌の里に到着。道の駅チックな施設のようで、かなりの車が停まっていて混んでいる。建物の後ろの丘は放牧地か何かなのか美しい草原である。


熊本平野を見下ろしつつ行く

上りが続く。確かこのあたりには10%の勾配標識があったと思う。X字型の斜張橋の主塔のようなものがあるが、その橋は通行止で入れず、そこも迂回する。でもここの迂回路は短い。

地図によればもう少し行ったところで旧道と新道が分かれる。そろそろこの交通量の多さとはおさらばかな、と思ったのだが、さにあらずだった。新道と旧道の分岐点の新道側はふさがれており、誰もがみな旧道を通るようになっている。つまり、新道のトンネル自体は通行可能だが、そこへ至る新道は復旧工事中なのだろう。

その旧道に入る。この地点の標高は389m。それからは眺めが開け、熊本平野を見下ろすことができる。また平野のこちら側には平らに張り出した台地のようなものがあり、さっきそばを通った空港もその上にあるとわかる。


風車を見ながら行く草地の中の道

交通量が多いうえに坂ばかりきついので少々意気消沈気味だったが、ここへ来て気分が上がってくる。眺望もいいが、道路の周辺の雰囲気もよい。草地が広がり、その上に風車や謎の柱(風車のメインポールよりもはるかに太いので、作りかけの風車ではないと思う)が建っている。ちなみに、麓からだが、道端にはアザミがとても多い。

やがて扇坂展望所という古ぼけた標識が出ていたので、標識の通りに右側に入ってみたが、広い駐車場があるだけで眺めはよくなかった。その先の草地に入れば眺めはいいのだろうが、共有地だから入るな系の看板があった。それで引き返して続きを走る。


旧道の上り

しばらく行くと、標高520m地点付近で、とうとう俵山トンネルへの道が左に分岐した。そこからはトンネルが下方に見えるので下りなわけだが、14%の勾配標識がある。おれはそのまま旧道を進むが、想像以上に多くの車がトンネルへ行ってしまい、峠道は静寂そのものになる。

じりじりと上る。背後の平野方面の風景は狭い角度になる。周囲は相変わらず草地がメインである。道端の咲いている木の花はハコネウツギとガクウツギ、それからよくわからないがノバラ(強い香りがする)の類が多い。あとエゴノキもあったが多くはない。

ヘアピンカーブによる折り返しを2回クリアして、鞍部に到着。

ちなみにその手前で西原村から南阿蘇村に入る。村界は鞍部の少し西側にあるということだ。


俵山峠展望所からの眺め

鞍部には駐車場があり、俵山峠展望所の標識が出ている。それで自転車を停めて少しだけ歩く。すると目の前が開け、阿蘇の山々と内輪山の内側の盆地が現れる。足元にはこれから下る道筋が見えている。素晴らしい眺めにもかかわらず人はまばらであり、静かである。

書籍九州の峠には、鞍部には峠の茶屋があると書いてあるが、それはもうなかった。


カルデラの内側に下る道

さて出発。さっき見下ろしたのと同様の風景を見ながら行く。生きてるって素晴らしい、というのはポヤッチオの歌詞だが、確かにそうだ。生きているから、こんな風景の中を走ることができる。


これから下る道を見下ろす

左側にその風景を見つつワインディングを下っていくと、足元の草原にこれから下っていく道がうねっているのも見えてくる。高揚した気分のままでそれを下り切り、県道28号線に合流する。標高は440mほど。

合流したのはさっきの交通量の多い道のはずなのだが、どういうわけだかそういう感じがしない。実際に交通量は大幅に減っていた気もするし、単に周囲の雰囲気が峠のあちらとこちらであまりにも違っていたということのような気もする。

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2017年9月7日初版